HOME > 理学部について

理学部長からのメッセージ

 北海道大学理学部長 石森浩一郎

理学部長石森浩一郎

 

「知的好奇心」とは

 「知的好奇心」は,「知的」=「知識・知性に関するさま」と「好奇心」=「珍しいことや未知のことなどに興味をもつ心」が組み合わさった語で,これまで耳にしたことがあるかもしれません。ここで,後半の「好奇心」については,類人猿はもちろん,犬や猫にも何か面白いと感じたものに反応する能力は備わっており,「好奇心」は進化の進化で生物が獲得してきた能力,つまり一種の本能のように考えることができます。つまり,人間は誰であっても「珍しいことや未知のことなどに興味をもつ心」をもっており,その心の赴くままに行動したいという欲求があります。一方,「知的」の部分はどうでしょうか。これは人類以外では類人猿の一部がかろうじて保持している能力で,少し複雑です。辞書的な意味としても「知識・知性」が具体的にどういう意味に対応するのかは難しいところがありますが,「好奇心」に「知的」が加わると,珍しいことや未知のことなどに興味をもった上で,その珍しいことや未知のことなどが,何を意味するのか考え,記憶にとどめることまで含まれるようになります。さらに人類は,このそれぞれの個人が「知的好奇心」によって得たさまざまな成果,つまり新たな「知識・知性」を人類全体で共有できる仕組みを持っており,それによって文明を築き,文化を育んできたと考えられます。高度に発達した現代社会や多様な文化に象徴される人類の進歩は,人類の「知的好奇心」の賜物と考えることができます。

「知的好奇心」によって「理」を解き「知」を創造する

水鳥

 理学部ではこの「知的好奇心」を非常に重要視します。むしろ,そもそも大学は,この人類がもつ広範な「知的好奇心」,特に,理学部では特に自然科学や数理科学の分野での「知的好奇心」を満たす場といっても過言ではありません。「好奇心」の部分は,本能のひとつと考えられるので,特に誰からも教えられることなくすべての人が持っている能力ですが,「知的」のほうは,それぞれの人によって個性があるばかりではなく,同じ人でも,「教育」や「学習」によって大きく変わります。これまでの先人の知識や経験を理解することで,同じ「好奇心」によって本能的に突き動かされていろいろな行動を起こしても,その結果に対する見方や理解の仕方が違ってきます。このような「結果に対する見方や理解の仕方」を実際に体験し,それぞれの人がそれぞれの分野で体得してもらう,つまり,自然科学や数理科学といった理系分野に興味のある若い人たちの「知的好奇心」を大きく伸ばす,ということが理学教育の大きな目的です。そしてその「知的好奇心」によって,数理や自然界の神秘や不思議の「理(ことわり)」を見出し,新たな「知」を創造することになります。このような「知的好奇心」を源泉とする「知」の創造の成果は,これまでの人類の歴史が示すように,あるときは直接的に,あるときは間接的に人類が抱える難問を解決する糸口を与え,幸福と健康を保障し,人類の進歩につながることになります。

北海道大学理学部

 北海道大学理学部は昭和5年創設の北海道帝国大学理学部にさかのぼることができますが,昭和初期の五帝大(北海道,東北,東京,京都,九州)の中で,農学や医学といった実学系の教育が基盤となっていた北海道と九州には創立当初には理学部が設置されておらず,北海道大学の中(4番目)でも,旧七帝大の中(4番目)でも比較的新しい学部です。このように新しい学部であるだけに,この理学部には斬新な建学精神によって創設され,それは当時,理学部担当に内定していた教員の多くが欧米に派遣されており,昭和4年の理学部設立準備の会議がヨーロッパ(パリ)で行われたことからも窺い知ることができます。もうひとつ,創設の際の精神を伝える象徴的なものが,現在,その多くが総合博物館として開放されている理学部本館に残っています。この建物は理学部創設に際して建築され,札幌での最初にコンクリートを用いた近代的建造物で,最先端の研究を最新の技術を駆使した建物でという創設当時の心意気も感じられますが,その正面階段を3階まで上りきると,「アインシュタインドーム」と呼ばれる空間が広がり,その四面の壁にはそれぞれ「果物」,「ひまわり」,「こうもり」,「ふくろう」のレリーフが飾られています。これはそれぞれ,朝,昼,夕方,夜を意味しており,この理学部を北の大地の基礎科学研究のメッカとするべく,昼夜を問わず未踏で最先端の研究に打ち込む理学部全員の決意を表した象徴として作製されたと伝えられています。実際,この建物の中では中谷宇吉郎博士の人工雪の研究や,2010年にノーベル賞を受賞された鈴木章博士の研究が行われ,確実に先人の決意が届いているように思われます。一方で,理学部本館の西側のポプラ並木にも程近い場所には,11階建ての近代的な三棟の建物と,美しいステンドグラスをはめ込まれた理学部建物群が位置しており,伝統を伝えつつ,最先端の設備を擁する理学部の陣容が見て取れます。現在,理学部は数学,物理学,化学,生物化学(生物学・高分子機能学),地球惑星科学の五学科を抱え,この理学部にしかない最先端機器や設備を縦横無尽に駆使しながら,学部創設時の決意どおり,世界最先端の研究が日夜実施されています。

理学部への入学

博物館壁紅葉

 このような理学部に入学し,それぞれの「知的好奇心」を伸ばす教育を受け,自らの「知的好奇心」を原動力として「理」を解き「知」を創造する研究に携わるためには,平成22年度から開始された総合入試で総合理系として受験し,合格後,1年間の全学教育ののち,2年次当初の学科分属で理学部各学科に配属されるか,後期二次試験で直接理学部の各学科を受験する必要があります。まずはこれらの入試で合格することが必要ですが,大学入学後も全学教育を真摯に受講し,自らの興味のある分野だけではなく,文系科目も含めて広く教養をつけることが,理学部に進学してからの学習や研究に予想以上に役立ちます。いろいろな分野に興味をもつことこそが「知的好奇心」を育むことですから,興味のある理系科目ばかりではなく,不得意な科目やこれまで興味のなかった科目も積極的に履修してください。広い教養は「知的好奇心」を育むには必要な栄養で,思わぬところで「理」を見出し,新たな「知」に展開できる原動力となります。

卒業後の進路について

 理学部に進学すると就職に苦労するという話をよく聞くかもしれません。確かに理学部は基礎科学の教育を主眼としており,「基礎=実際にはあまり役立たない」という図式を信じている人も多いでしょう。最近の総合理系入試で入学した学生の中でも,本当は理学部に進学したいが,就職に苦労するらしいから,あるいは周りの人から理学部に行くと就職に困るというから,といった理由で進学を躊躇する場合もあると聞いています。しかし,理学部卒業生,あるいは理学関連大学院修了生の就職状況をご覧いただければ,このような心配はまったく無用であることがわかります。一般の企業であっても基礎科学の重要性は認識されていますし,何より数理や自然界の神秘や不思議に触れ,その「理」を見出し,新たな「知」の創造を目指すことは,目の前にある問題を自らの工夫で解いていくという点で,実社会での種々の問題を解決することとまったく同じです。むしろ,大学では自由に学修,研究できるからこそ,自らの「知的好奇心」を尊重し,それぞれの人の「夢」を追って基礎研究に打ち込むことこそが重要です。将来,民間企業への就職を希望している人でも,学部在学中は基礎科学の学修と研究に没頭してください。そこで得られた問題解決能力は,民間企業や行政,あるいは初等,中等教育の現場等の一見,基礎科学とは全く関係のない場面においても,その分野の応用的な諸問題の解決を探る上で十分に生かせるものになります。

北大理学部の恵まれた環境で,新たな「知」の創造を目指しましょう

中央ローン

 北大理学部は,大都市の中心に位置するにもかかわらず,緑豊かな自然に恵まれた札幌キャンパスに位置しており,札幌農学校以来の伝統を感じさせる落ち着いた中にも近代的な動きが実感できる日本では他に類を見ない素晴らしい環境を有しています。このような環境の中で,中谷宇吉郎博士や鈴木章博士の独創的な研究が育まれ,新たな「知」の創造が生まれました。また,日本人最初の宇宙飛行士となった毛利衛博士が学部生として過ごしたのもこの理学部です。科学のさまざまな領域で新たな「知」を創造してきたこのような先人に続いて,北大理学部創設時の心意気を伝統として感じつつ,最先端の機器や革新的な理論を駆使して科学のフロンティアを開拓することで,多くの若い有為な人材がこの札幌の地で,私たちと一緒に「知的好奇心」の赴くまま「理」を解き,新たな「知」の創造を目指されることを強く期待しています。

このページの先頭へ