素粒子論研究室に興味がある人の為の良くある質問集


Q.素粒子論を研究するのに向いているタイプの人とはどういう人でしょうか?
Q素粒子論では今どういったことが話題になっているのでしょうか?
Q.現在の素粒子理論は実験とかけ離れて来ていると言われますが、それはサイエンスと言えるのでしょうか?
Q.素粒子論を研究すると就職に不利になるのではないですか?
Q.素粒子論研究室ではまず、どのようなことをするのですか?
Q.マスターコース1年で素粒子論よりも自分にあった研究テーマがあった場合にはどうしたらいいのでしょうか?
Q.将来大学の教員になりたいのですが、このために大学院生の間に身につけたほうがよいと思われるのはどういったものでしょうか?
Q.素粒子論の本を見たのですが、とても難しく感じます。どうしてでしょうか?
Q.超弦理論で10次元ということを読んだのですが、これってもう元からだめな理論に思えるのですが。
Q.素粒子論の分野では教員を先生と呼ばないというのは本当でしょうか?


質問 Q.素粒子論を研究するのに向いているタイプの人とはどういう人でしょうか?
答え 以下のような人が素粒子論研究室に向いていると言えます。
一つでも自分にあっていれば、素粒子論をやるのに向いていると言えるでしょう。

1.物事を根本からすべて構成してみたいという人
2.常識を疑って考えるひと
3.他の人の一般的な理解という現状に満足せず、もっと自然法則は美しいものであり、自分なりにそれを見いだしたいという人
4.新しいアイデアを出したり、他のアイデアをいち早く取り入れそれを改良したりするなどの柔軟性がある人
5.素粒子論だけでなく、サイエンス全般に興味がある人
6.とにかく新しいものが好きな人
7.宇宙の発生に興味がある人
8.くよくよせずに明るい人
9.冗談が好きな人
質問 Q.素粒子論では今どういったことが話題になっているのでしょうか?
答え 現在、素粒子理論には標準模型が存在し、今までの実験をすべて説明できています。しかし、その一方で以下のように、現在の素粒子理論は不完全であるという証拠があるという問題を抱えています。

第一の問題は、理論自身は多くのパラメーターを含みますが、そのパラメーターの調整は非常に不自然な形をしているということです。現在、それらの多くのパラメーターがどうやって決まっているかなどがわかっていません。

もう一つの問題は、宇宙の観測によって標準模型にはない新粒子が存在することが明白であるからです。宇宙背景輻射などの観測から、宇宙空間では私たちの知っている素粒子によって構成されているエネルギーはわずか5パーセント弱であり、それよりずっと多い23パーセントもの暗黒物質があることがわかっています。これは素粒子の標準模型には含まれていません。また、後72パーセントは暗黒エネルギーと呼ばれており、その起源は明らかではありません。この問題を解決すればノーベル賞は間違いないでしょう。

また、私たちの宇宙は、電子の数が陽電子の数よりも圧倒的に多いわけです。しかし、素粒子理論からはどうしてこのような電子と陽電子の差が現れるのかがわかっていません。小林益川理論では、この宇宙の粒子・反粒子の非対称性の一つを表していますが、現在の存在比率を説明するのには圧倒的に小さいのです。このため、この粒子・反粒子の非対称性の問題は解決されていません。

こうした問題の解決には、超対称性理論や超弦理論などが研究されていますが、未だに確定的な結果は出ていません。私たちの知っている物質の6倍もある暗黒物質の解明こそ今最も重要な課題であるのです。それは、きっと標準模型の不自然さの解決と関連していると期待されています。

現在の素粒子論の問題はその法則だけでなく、宇宙の進化も説明しなければなりません。このため、素粒子論の多くの研究者が宇宙論を論じ、また宇宙論の研究者も緻密なモデルの設計には素粒子論が欠かせなくなってきました。このように、宇宙論と素粒子論は非常に密接に関連するようになっています。
これ以外にも他の人の気づかない問題点を見つけ出し、解決することが重要です。きっと、新しい視点が新しい発見を生んでいくことにつながるのかもしれません。
質問 Q.現在の素粒子理論は実験とかけ離れて来ていると言われますが、それはサイエンスと言えるのでしょうか?
答え 高エネルギー実験はエネルギー領域が非常に高くなってきており、その実験に多くの資金が必要になってきています。そのため、新粒子の発見などには多大な資金が必要となってきました。また、小林・益川理論がその検証に30年もかかったことは記憶に新しいですね。
過去の歴史からみると、素粒子理論は理論の整合性と実験とによって決定されています。実験によって思いがけない粒子の発見があり、それを説明する理論が構成されてきたのです。もちろん整合性のみから決定されないこともありますが、物理学の大きな飛躍は、実験なしに理論の整合性を突き詰めることによって発展してきたことも多いのです。
以下にその例を見てみましょう。

電流によって磁場が生じることは良く知られています。しかし、たとえばコンデンサーに電荷がたまっていくプロセスで考えて見ましょう。このときコンデンサーの内部には、電流が流れていないのにもかかわらず、磁場が発生します。マックスウェルは、これは、電荷がたまっていくことによる電場の変化によって磁場が発生すると考えると理論的に整合性のあるものになることを見いだしたのです。つまり、電場の変化が磁場を生み出すのです。この考え方と電磁誘導とにより電磁波の予言がなされました。この結果、光の性質は電磁気学により説明でき、電磁気学と光学とが融合されたのです。

またアインシュタインは、重力の元では質量にかかわらず同じ運動をする(等価原理)ということから一般相対性理論を導きました。これは実際に水星の歳差運動の説明や重力による光の曲がりということで確かめられました。

ディラックは、シュレディンガーによる方程式を相対論的に考えました。つまり、量子力学と相対性理論の融合です。すると、電子の方程式は、水素原子の磁気能率の大きさをうまく説明する反面、正の電荷を持つ電子を必要としたのです。これは当時、ディラックの理論の最大の欠点だとされ、ディラック自身もこの理論をあきらめていました。しかし、その後、正の電荷を持つ電子、陽電子が発見されたとき、ディラックの理論は陽電子を予言したと言われるようになったのです。ディラック自身も「方程式は私より賢かった」と言ったそうです。

電磁気学と量子論の融合は、朝永・シュビンガー・ファインマンによってなされました。特に朝永振一郎は、水素原子のスペクトルのディラックの理論からのずれをその実験結果以前に予言したという点で注目に値します。

量子論と重力理論の融合については、残念ながら完成していません。また、実験的な検証は、非常に困難です。しかし、いったん整合性のある理論ができると様々な予言ができると期待されます。

このように、理論の整合性は新しい予言をする上で重要な指針であり、すぐに実験ができなくとも新しい予言につながることが期待されるのです。
質問 Q.素粒子論を研究すると就職に不利になるのではないですか?
答え 素粒子論の学位をとって社会人になった人は数多くいます。素粒子論は新しいアイデアに対して柔軟に対応し、また自ら新しいアイデアを出す企画力が重視されます。こうした能力は、企業に就職しても非常に役立つものになるはずです。このように、大学院で学ぶのは、何を対象にしているかよりもいかに研究したかが重要であり、研究者にならなかったとしても、こうした能力は将来どのような職種にも対応できるものと考えます。

また、実際の物理に来る求人は、工学部などと異なり、即戦力を期待していることはまずありません。そのため、大学院時代には、与えられた仕事を自分なりにこなしたりする能力や、企画力を養うのが重要であり、素粒子論研究室ではこうした能力を身につけるのに最適な場所と言えるでしょう。
質問 Q.素粒子論研究室ではまず、どのようなことをするのですか?
答え マスターコース1年では、場の理論と素粒子論の基礎を勉強します。これは最初は非常に数学的で量の多い勉強になるように思われますが、数式に惑わされずに物理の本質を見抜けば負担として感じなくなってくると思います。
これをマスターしたら、自分の興味と特性にあった研究テーマを見つけて勉強し、新しいアイデアを出して研究していきます。自分でテーマを探していくことも重要なことでしょう。

また、一ヶ月に2回ほどの他大学の研究者を招いたセミナーの後は、天気が良ければ理学部裏の芝生でバーベキューパーティーを、また天気が悪いときは研究室のセミナー室において鍋やお好み焼きなどのパーティーをします。
マスターの一年生のときはこうしたパーティーを仕切っていくことになっていますので、料理の勉強もしていきましょう。
質問 Q.マスターコース1年で素粒子論よりも自分にあった研究テーマがあった場合にはどうしたらいいのでしょうか
答え 素粒子論研究室は大変寛容です。すべての人に向き不向きがあることは当然なのです。すべての人が万能でレオナルドダビンチのような人はいないのです。
素粒子論ができるからといっても、家では奥さんにしかりとばされている人も益川さんをはじめとして数多くいます。素粒子論研究室では、各個人の特性にあった指導をし、物性物理学の教員、数学の教員、量子コンピュータの教員、また、教育研究の教員など、様々な分野の研究者となる卒業生を輩出しています。
もちろん、様々な企業に就職しています。自分の興味と特性にあった研究をしていけばいいのです。むしろ、自由で独自の研究が一番なのです。
質問 Q.将来大学の教員になりたいのですが、このために大学院生の間に身につけたほうがよいと思われるのはどういったものでしょうか?
答え 研究者としては、実際に計算したりする能力よりも、新しい問題を見つけ出す能力、つまり企画力が重要になることが多いのです。このため、研究では様々な話題に興味を持っていくことが重要になります。

また、現在の大学の教員は、教員の教育能力が問われることが多くなってきています。そのため、コミュニケーション能力や説明する力、また、教授法に関する基礎知識が重要になっています。大学院時代にはそうしたことも勉強していくようにしましょう。先輩や友人たちとの議論に積極的に参加してみましょう。
こういった能力は、企業にとっても重要になるので、仮に研究者にならなかった場合にも重要になるでしょう。素粒子論研究室では、教育研究をしている教員もいますので、教育研究も積極的に行うことが、教員としての就職に有利になることが期待されます。
質問 Q.素粒子論の本を見たのですが、とても難しく感じます。どうしてでしょうか?
答え 素粒子論が難しく感じるのは、素粒子論自身が不完全なものであることに起因していると思われます。
現在の素粒子論に不満を持ち、より美しいものにしていこうとする努力こそ、素粒子論を研究する動機になるのです。
質問 Q.超弦理論で10次元ということを読んだのですが、これってもう元からだめな理論に思えるのですが。
答え 超弦理論では、私たちの住んでいる4次元時空ではなく、10次元で整合性があるのです。これは一見大変奇妙に感じるのが普通ですね。
それでは逆に、超弦理論が4次元でうまくいっていたらどうなるのか考えてみましょう。弦は揺れているため揺れている方向に偏光方向を持った粒子が私たちの観測にかかる粒子となります。
こうした偏光方向を持つ粒子は、重力子や光子といった力を媒介する粒子として知られています。つまり、超弦理論が仮にうまく4次元でうまくいく理論だとすると、力を媒介する粒子しか記述できないのです。それ以外の物質場は弦ではなく粒子として扱うのが適当となるでしょう。
一方、10次元でうまく定義された超弦理論において、私たちの知っている時空4次元以外の6次元方向が何らかのメカニズムで見えなくなるものとしてみましょう。すると、この見えない方向に揺れている粒子は、4次元時空の方向には揺れていませんので、偏光方向を持たない粒子として見えるのです。つまり、偏光方向を持たない物質場も弦理論に含めることができるのです。

もちろん、なぜ6次元方向が見えなくなるのかといった理由はわかっていませんが、このように、むしろ10次元であるからこそ、力と粒子の統一理論としての魅力があるといえるでしょう。
質問 Q.素粒子論の分野では教員を先生と呼ばないというのは本当でしょうか?
答え 素粒子論の分野では教授などであっても普段先生と呼ばないというのが業界全体の習わしになっています。これは、外国などでは教授などでもファーストネームで呼ぶことが慣わしであるのと精神は同じです。素粒子論分野全体に、大学院生はもう一人前の研究者予備軍ですから、人間的にも研究者としても教員と対等であるべきであるという認識があるのです。実際にスタッフの多くは、確かに物理は良くできるのですが、人間的には学生と大差ありません。
しかし、これには例外もあります。実は頼み事をするときに「先生」を使うのです。たとえば、「先生この書類にサインをお願いします。」などと使います。またコンパなどで「先生、少しお金が足りなくなってしまったので、1万円ほど補助をお願いしたいのですが」というように使うのです。するといつも先生と呼んでもらったことがない教員は、気をよくして「しかたないなー、どれどれ、あっ、今お小遣い前でお金が全然ないや。いや、この前も、帰りにヨドバシカメラよったら、デジカメ1万円で売っててさー、これって買えっていってるようなもんでしょ。それでもう小遣いなくなっちゃったんだよねー。ごめん、ごめん、ここの払いちょっと貸しておいて」などとなります。

これで先生と呼ばない理由がおわかりいただけたでしょうか?
その他質問は、webmaseter_@_particle.sci.hokudai.ac.jpまで送って下さい(スパム防止のため@を_@_としています)
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