Web of Science ってすっごく便利!これが無ければ,自分の守備範囲を越えて論文を書く,なんてことはなかなかできない.4年生や修士がテーマを決める上でも,役に立つだろう.投稿や博士の予備審査前には,似たような論文が出版されていないかどうかをチェックする方が安全だ.進学希望の研究室のactivityを計る一助にもなる.でも,慣れないと,なかなか使えないかもしれない.画面は全部英語だし.そこで,このドキュメントでは,Web of Science の使い方を紹介しよう.
Web of Science は,Institute of Scientific
Information (ISI社)が有料で提供するサービスで,著者名やキーワードで論文の検索ができるほか,その論文がどの論文に引用されているのかと何回引用されているのかを,調べることができる.北大の場合はキャンパス全体で1同時アクセスの契約を結んでいるらしい.
検索される範囲は,理系の場合は同社のデータベースであるScience-Explandedに収録されている雑誌だ.これらの雑誌は,同社が定義するImpact
factor を持つので,Impact Factorを持つ雑誌と形容されることが多い.Impact
factorを持たない雑誌にで引用されても,被引用回数のカウントには含まれない.ただし,Impact
factor を持つ雑誌に引用された,Impact Factor
を持たない雑誌に掲載された論文の引用回数だけは調べることができる.
北大からなら,http://portal.isiknowledge.com/にアクセスすると,下のような画面が表示される.この画面で赤丸で囲んだ部分をクリックすると,web
of science のはじまりだ.
図1.Web of science とJournal Citation reports のどちらを利用するかの選択画面.
次に出てくる画面でFull Search か Easy Search
を選択する.Easy Search は使ったことがないので,Full
Search の説明に限る.そっちを選ぶと,出てくるのが図2の画面だ.理系的な話なら,上の3つのチェックボックスの内,2つめと3つめのチェックははずしておくことが無難だろう.年を制限するのは,制限しないとヒット数が多すぎて収拾がつかない場合に役に立つ.
図2.web of science の検索範囲設定画面.理系的な話なら,上の3つのチェックボックスの内,2つめと3つめのチェックははずしておくことが無難だろう.
海洋気候物理学研究室なんてのをやっていると,最近話題の北極振動(Arctic Oscillation)は避けて通れない,ではweb of science ではどれくらい調べられるかやってみよう.Arctic Oscillationをtopicに入力してSEARCH ボタンを押す(リターンではダメ).Arctic Oscillation という入力は,この2語がこのように連続している場合にのみヒットする.なお,北極振動はしばしばAnnular mode (環状モード)とも呼ばれる,北極振動か環状モードのどちらかまたは両方を含んでいる論文を調べるには,Arctic Oscillation or Annular mode と入れる.Arctic Oscillation and Annular mode と入れれば両者を共に含んでいる論文のみが検索される.
図3.General Search の検索フォーム.トピック,著者,発表雑誌,著者の所属・住所,を検索キーにできる.この例では,トピックにArctic Oscillation (北極振動)を入れている.
図4.Arctic Oscillationの検索結果.下にスクロールすると97 の文献があることが表示されている.並び替え(SORT)のプル・ダウンメニューで,引用された回数(Times Cited)を選んだところ.
97編も論文が出てくると,その全部に目を通すのは難しい.とりあえず重要な論文をチェックしたい,という時に便利なのが並び替え(SORT)だ.図4では引用された回数(Times Cited)を,SORTのプルダウン・メニューから選んで並び替えると,図5のように最も引用された論文が先頭に表示される.
図5.Arctic Oscillationの検索結果(図4)を引用回数の多い順に並び替えた結果.この後,Shindell, Baldwin などの北極振動で有名な研究者が続いている.
図5では,Thompson DWJ と Wallace JM の1998年のGeophysical
Researh Letters の論文が最も多く引用され,その後に2000年のJournal
of Climateの2部作が続いている.実はこの1998年の論文は,北極振動を最初に提案した論文だ.この論文をクリックすると,図6のように要旨が示されるとともに,268回引用されていることわかる.要旨では,検索キーワードであるArctic
Oscillationが太字で示されている.
図6.図5の一番上の論文をクリックした示される画面.Cited
References をクリックすると,この論文が引用している論文が示される.Times
Cited をクリックすると,この論文を引用した論文が示される.
Web of Science で面白いのは,図6のように見つけ出した論文を引用している論文を,Times Citedをクリックして表示できることだ.ある論文が引用している論文なら,印刷された論文のReferencesに記載されている.したがって,Cited
References は便利だけれど,他の手段で代替えできない機能ではない.しかし,ある論文を引用している論文を見つけ出すのは,Web
of Scienceの独壇場だ.
ある人がどういう研究をやっているかを調べたい場合は多い.たとえば,非常に面白い論文あの研究者は最近何をやってるのだろうか?この場合には,図3のAUTHORに人名を,姓とイニシャルで入力する.例えば,北極振動者の提唱者なら
Thompson DWJと入れる.Thompson DWとすると別人になってしまうので,注意しよう.
面倒なのは同姓・同イニシャルがいる場合だ.欧米は大体,姓にバリエーションがあって,名は決まりきったのが多い.William
(クリントン)とか Gorge (ブッシュ)とか.だから,姓をspell-outして,名はイニシャルというのは合理的だ.
日本は逆で,姓の方が名よりもバリエーションが少ない.その結果同姓同イニシャルが沢山いる.例えば2002年現在ウチの研究室と隣の研究室に,Sasaki
Y. という学生は3人もいる.こういった人の場合は姓とイニシャルだけでは,特定できないという問題が生ずる.この問題を,緩和するには所属も一検索に用いる.例えば,図3のADDRESSに,Hokkaido
Univ and Earth & Planetary と入れれば,著者に北大院・理・地球惑星科学専攻の者が含まれている可能性がぐっと大きくなる.ただしこうしても,著者の一人がHokkaido
Univ の他部局に属し,かつ著者の一人が他大学のEarth and Planetary に属している場合は排除できない.もう少し精密な検索をするには,Hokkaido Univ, Grad Sch Sci, Div Earth とすれば,良さそうだが,実はGrad Sch Sciが欠落していたり,順序がDivと入れ替わっている,という論文は少しはあって完全ではない.こういった同姓同イニシャル問題を緩和するために,ミドルネームをつけている賢い日本人も結構いる.
#韓国なんて大変だあ.Kim,Park,LeeってSasakiどころじゃない.
通常の検索(図3のGeneral Search)では,過去十年にSCI-Expandedに収録されている雑誌に発表された論文しか,調べることができない.日本海洋学会の雑誌Journal of Oceanography は2002年からSCI-Expandedに収録されたものの,その前の論文についてはGenearal Searchでは分からない.こういった論文についても引用すうだけ調べるなら,Cited Reference Search (図7)でなんとかできる.
図7.CITED AUTHORなどに入力して,LOOKUPをクリックすると,引用回数のリストが出る.ただし分かるのは,引用回数と,雑誌名と出版年だけだ.またADDRESSが無いので,同姓同イニシャル問題は通常検索よりも厄介だ.
Cited Reference SearchにはADDRESSが無いので,同姓同イニシャルが多数いると,発表雑誌名や出版年で制約する必要がある.
図7のCited Reference lookup をやってみると,ある程度間違って登録されている論文があることに気がつく.例えば,Geophysical Research Letters は本来はGEOPHYS RES LETT で登録されているべきなのに,RES LETT となっていたりする.論文名の記載方法は,多少のふらつきがあるので,ある程度はやむを得ないし,ISIの入力ミスもあるだろう.名前が違っていたりすることもあって,ある論文では私の名前が Minobe SS,所属がInstitute of Geophys になっていた.
雑誌名の誤りは,Cited Referenceでチェックすることができるので,チェック漏れを極力防ぎたい場合には,Cited Reference Searchも使う方が良い.
2002/09/07 by S. Minobe