卒・修論に見られる良くない表現

 

見延 庄士郎

良くない表現 訂正例 説明
特に注意して欲しい表現
動作主体のすり替え 主語を明示するか,「誰それの解析を紹介する」というように変更する. 主語を明示しない文では,主語は「私」である.レビュー論文で,「解析」「計算」「考察」「導出」などを行なったのがオリジナル論文の著者であるにも関らず,主語を明示しないと読者はレビュー論文自体の著者がこれらの行為を行なったかのように受け取ってしまう.
考えられる 可能な限り避ける 一般にそうであるとされているなら,「考えられている」がふさわしい.信ずるに足る十分な理由があって,主張している場合には「である」「であろう」などのより強い表現がふさわしい.「考えられる」は,「そうとも考えられるし,そうでないとも考えられる.」という文が日本語として十分成立していることから明らかなように,本来かなりあいまいな主張であることを示す語であり,科学技術論文にはふさわしくない.
..がわかる
常に使わない
口語的であることに加えて動作の主体が不明であり,誰にでも分かるのか一部の人にしか分からないのかあいまい.誰にでも分かるなら,わざわざ「わかる」と書かなくて良いし,一部の人にしか分からないなら,論文に記述する価値はない.例えば「高温であることが分かる」は,単に「高温である」にすれば良い.これと類似するが,「..が見られる」は,出現頻度がはなはだしくなければ可.
見る,見た,見ていく 「検討する」,「説明する」 口語的であると共に,「見ていく」は狭くとれば単に見ているだけである.より固い表現かつ具体的な表現が良い.
★それにしても,卒論では「見る」を使いすぎの人が多い.もっと具体的かつ正確な,つまり機能分化された言葉を使おう.
図Xを見ると
不要なので使わない 例えば,「図Xを見ると,高温偏差がどこそこに存在する.」であれば,「高温偏差がどこそこに存在する(図X).」あるいはどの図のついて述べているかが明確なら,「高温偏差がどこそこに存在する.」でよい.「図Xを見ると」は文章では不要,口頭発表でも避ける方が時間を節約できる.
あいまいなひょうげん
...を含む特徴が見られる. 「...の特徴が見られる.」または「 ...を含 むこれこれの特徴が見られる.」 を含む特徴との表現は,述べている内容以上の特徴 があることを示唆しながらその特徴を言及しないというものである.このような含みのある表現は,常に避けるべきである.
....のような 同一なら単に「ような」を除けば良い.また類似しているけれど相違がある場合には,類似点と相違点を述べる方が良い. 「ような」は「同一」である場合と「類似しているけれど相違がある」場合の両方があり得るあいまいな語なので,可能な限り避ける.
誰それは....であるととしている 「述べた」「注意した」「仮定した」「提案した」など、より狭い意味の語を使う。 「している」は本来「する」ということだが、非常に多くの意味を持ち得る。ここでは単なる「する」ではなく,具体性・意味限定性に乏しい.
同様の領域 同じ領域,違うなら領域を具体的に述べる(例えば緯度経度で) 同じなのか違うのかはっきりしない
シャープさに書ける表現
...が, 可能な限り避ける. 意味不明瞭な日本語の元凶とも言われている.特に「図1についてであるが,」のように主題の提示には使わないこと.
「しかし」の意味で,可能な限り少なく使うのは可.この場合でも最初は,「...が,」では無い表現を考え,滑らかでない場合のみ「...が,」を使う.
今回の研究 本研究 「今回」は前回や次回がある場合は良い(例えば2回目の学会発表)。しかし1回しか卒論・修論を提出していないならおかしい.なお、昨年論文を提出したが落とされたか、今年論文提出するが多分落とされる、のであれば正しいけれど,そういう事態にならんようにね.
この結果は,.... 結果をより具体的に述べる.また,具体的かつ簡潔に述べれるように,それに先立つ結果自体の説明で工夫する. 少しならいいけれど,連続するとよくない.
可能性を示唆している 「可能性がある」または「...を示唆している」 弱い表現を二つ重ねることはしない.ちなみに「可能性」は実現可能性が20-30%くらいのかなり弱い表現である.「示唆している」で60-70%程度だろうか.
なお日常会話では、かなりそうだろうと思っていても、断言することを避け謙譲の美徳を発揮するために、「可能性がある」という言い方をすることがある。しかし、「可能性がある」のは本来「全く不可能ではない」という程度の小さい可能性を示す言葉であり、英語のpossibleに準ずるなら実現する確率は40%以下である。したがって、論文の主たる結論には使うことができない弱い言葉である。
科学業界の慣習に反している表現
前に示した図の説明文を前と同じように書く. 「図 # と同じ。ただし、... である。」とするのが,科学業界の慣習.
こうすることで、読者は効率よく(重複の多いFigure captionを繰り返し繰り返し読まずに)図を理解することができる。
科学業界の慣習に反している.
表の説明を表の下につける 表の説明を表の上につける 科学業界の慣習に反している
[Miller (1998)] [Miller 1998] 文末の引用では著者・年号の両方をかっこに入れ,年号だけにかっこは付けない.
第4節,第4図 4節,4図 「第」は付けないのが普通
その他
図1においては,.....が見ることができる 「図1は...を示している.」が明快. まだらっこしいことに加え,「ことができる」は,可能性に言及している場合,能力に言及している場合を除いて避けるほうがよい.
とても 非常に 口語的
Fig.1 Fig. 1と,ピリオドと数字の間を半角あける. Figure 1"の"Figure"を"Fig." に置き換えたのであるから,続く空白を除いてはならない.
省略後の後はピリオドが必要なので,Fig. とピリオドを忘れない.

 

by Shoshiro Minobe (), last modified 24 January, 2003

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