褐藻植物の細胞質分裂


 褐藻植物では動物細胞と同様に、核分裂期を前に複製した中心体が紡錘体極形成に重要な働きを有しています。核分裂に引き続いて行なわれる細胞質分裂は、動物細胞では、アクチンフィラメントからなるリングのくびれ込みによって生じます。このアクチンリングができる場所は核分裂中期の紡錘体の位置、あるいは核分裂期後の中心体の位置によると考えられています。一方、中心体の存在しない陸上植物では、核分裂終期に微小管、アクチン、ゴルジ体由来の小胞からなる隔壁形成体(フラグモプラスト)が娘核の間に形成されます。新しい細胞の仕切りは細胞の中央から周辺にむけて成長し、その仕切りの間に細胞壁の沈着が生じ、細胞質分裂は終了します。なお、隔壁形成体が生じる場所は、核分裂直前に現れる前期前微小管束によって予定されていると考えられています。このように動物細胞や陸上植物では細胞質分裂面の位置決定や進行を司る特別な構造が現れます。褐藻植物においては、アクチンリングや陸上植物のような特別な微小管配向が細胞質分裂に際して見られないということは分かっていたのですが、その代わりに細胞質分裂がどのように行なわれ、そして、中心体が関わっているのかどうかが明らかにされていませんでした。
 急速凍結置換法で褐藻カヤモノリ接合子の電子顕微鏡試料を作製したところ、極めて膜系の保存が良好となり、細胞質分裂の様子を詳細に観察することができました (Protoplasma 2002)。褐藻植物の細胞質分裂は、@核分裂完了後、娘核の近傍に位置する中心体から細胞中央部にむけて微小管が発達、A互いの中心体から伸びる微小管が交わる部分に細胞質分裂に関わる数種の小胞が集積、B集積してきた小胞が互いに融合し、やがて原形質膜へ到達、C細胞壁成分の沈着をもって細胞質分裂が完了する、ということが分かりました。
 褐藻カヤモノリの雌性配偶子に複数の雄性配偶子が受精した(多精受精)場合の核分裂、細胞質分裂について観察を行ったところ、中心体は細胞質分裂の進行および分裂面の決定、さらには葉緑体の娘細胞への分配にも関与しているといった結果が得られています (Journal of Cell Science 2002)。


褐藻シオミドロの複子嚢形成過程にみられる細胞質分裂。
矢印は発達途中の細胞板を示している。