主な研究手法の紹介


サザンブロット解析



電気泳動したDNAを専用の膜(メンブレン)にブロットする(写しとる)こと。特定のDNA塩基配列の存在を検出するために用いる。制限酵素で断片化した ゲノムDNAやPCR産物のDNAをアガロースゲルで電気泳動して、ナイロンメンブレンにブロットする。その後、標識したプローブをハイブリダイズさせて シグナルを検出する。当研究室ではトランスジェニックマウスにおける導入遺伝子の検出やDNase I HS(下記参照)の検出のほか、RT-PCRと組み合わせて発現量の低いRNAを検出する場合などに用いている。



ノーザンブロット解析



電気泳動したRNAを専用の膜(メンブレン)にブロットする(写しとる)こと。特定のRNA塩基配列の存在(特定の遺伝子がRNAとして発現しているか) を検出するために用いる。アガロースゲル電気泳動により分離したRNA断片を、ナイロンメンブレンにブロットする。その後、標識したプローブをハイブリダ イズさせてシグナルを検出する。分子量マーカーとともに電気泳動することでRNA分子の大きさを決めることもできる。一般にRT-PCRよりも感度は低い ものの、定量性の高い方法である。



ウェスタンブロット解析



電気泳動したタンパク質を専用の膜(メンブレン)にブロットする(写しとる)こと。特定のタンパク質の発現を検出するために用いる。組織や細胞からタンパ ク質を抽出し、SDS-PAGE(SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動)によって分離する。ゲル上のタンパク質を専用のメンブレンにブロットした後、目的のタンパク質を認識する抗体(一次抗 体)と反応させる。その後、一次抗体を認識する標識された二次抗体と反応させて、そのシグナルを検出することで目的のタンパク質が発現しているかどうかが 確認できる。分子量マーカーを一緒に電気泳動することで、目的のタンパク質の分子量の推定も可能である。



RT-PCRReverse Transcription-Polymerase Chain Reaction



RNAを検出することによって、特定の遺伝子が発現しているか調べる方法。組織や細胞からRNAを単離し、それを鋳型として逆転写酵素を用いてcDNA (complementary DNA)を作成する。次に、調べたい遺伝子に特異的なプライマーと作成したcDNAを用いてPCR反応を行う。PCR反応物を電気泳動してバンドを確認す ることによって、目的の遺伝子がその細胞・組織で発現しているかを確認できる。一般に感度は高いが定量性に欠けると言われており、近年ではこの問題を解決 するためにリアルタイムPCRを行うことも多い。



リアルタイムPCR



定量性のあるPCRである。PCR反応溶液にDNAに蛍光物質を入れておき、PCRのサイクルごとに蛍光強度を確認することで産物の量をモニターする。こ れは2本 鎖DNAが形成される際、蛍光物質が一緒に取り込まれることを利用している。産物の量が1サイクルにつき2倍ずつ増えるような範囲のサイクル数で比較する ことによって、各サンプルの産物量を定量的に比較・測定することが可能になる。



in situ hybridization



特定のRNA(DNA)が組織切片上(あるいは染色体上)のどこに局在しているのかを調べる方法である。標識した1本鎖のRNAあるいはDNAのプローブ を組織切片と反応させることで目的のRNA(DNA)とハイブリッドを形成させ、その後プローブのシグナルを検出することによって目的のRNA(DNA) がどこに局在しているのかを可視化できる。



immunohistochemistry



特定のタンパク質が組織切片上のどこに局在しているのかを調べる方法である。目的のタンパク質に特異的な抗体(一次抗体)を組織切片と反応させて、そのタ ンパク質と結合させる。次に、一次抗体を認識する標識した二次抗体を反応させると、二次抗体は一次抗体が存在する箇所(つまり目的のタンパク質がある箇 所)にのみ結合する。最後に、二次抗体の標識を検出することによって、目的のタンパク質が局在する場所を確認できる。



bisulfite sequencing



DNAメチル化パターンを解析する方法である。組織や細胞のゲノムDNAを制限酵素によって断片化してbisulfiteと反応させる。すると、非メチル 化C(シトシン)はU(ウラシル)に変換されるのに対し、メチル化CはUにならずにCのまま残る。このゲノムDNAを鋳型にして目的の配列をPCRによっ て増幅して、サブクローニングする。通常は1サンプルあたり10クローン程度のシーケンスを確認して、個々のCがT(チミン)に変換されているのか、ある いはCのまま残っているのかを調べる。これにより、その細胞・組織におけるそれぞれのCのメチル化率が算出される。



細胞培養



多細胞生物から細胞を分離し、維持・増殖させることを細胞培養といい、これにより生体外で細胞に対して様々な実験を行うことが可能になる。実験には不死化 させた細胞株を用いる場合と、生体から細胞を分離して増殖させる初代培養細胞を用いる場合がある。細胞株は培養が容易であるという利点があり、初代培養細 胞はより生体内の環境に近いという利点がある。



レポーター解析



培養細胞や組織にレポーター遺伝子を導入し、その発現部位や発現強度を調べる解析方法である。転写活性を測定する場合は、プロモーターやエンハンサーにル シフェラーゼ遺伝子をつなげたものを培養細胞に導入して、1−2日後に細胞抽出液中のルシフェラーゼ酵素の活性を測定する。



クロマチン免疫沈降(chromatin immunoprecipitation, ChIP



特定のタンパク質とDNAの相互作用を検出する方法である。ホルムアルデヒド処理によってDNAとタンパク質を架橋した組織や細胞からクロマチンを抽出す る。次に、超音波破砕によってクロマチンを断片化して、目的のタンパク質に特異的な抗体を用いてクロマチンごと免疫沈降させる。最後に、沈降してきたサン プルからDNAを精製し、PCR法などによって目的のDNA配列が含まれるのかを調べる。ヒストン修飾レベルを調べる場合には、さまざまな種類の修飾ヒス トンに特異的な抗体を用いる。



DNase I HS (hypersensitive site) mapping



細胞や組織中でクロマチン構造が緩んでいる領域は転写因子が結合している領域である可能性が高く、そのような領域を探索する方法である。調べたい細胞や組 織から核を単離し、DNase I(DNA分解酵素)を弱く作用させる。するとDNase Iはクロマチン構造が緩んでいる領域から優先的に切断していく。この切断された箇所をPCRやサザンブロットにより調べることで、どの領域のクロマチン構 造が緩んでいるのかを推定することができる。



3C解析(Chromosome Conformation Capture



核内で特定のゲノム領域が他のゲノム領域と物理的に相互作用しているか調べる方法である。ホルムアルデヒド処理によってゲノムDNAとタンパク質を架橋 し、細胞核を抽出する。ゲノム同士の相互作用に関係のないタンパク質を除いた後、核をまるごと制限酵素処理する。その後、適切な濃度に薄めた溶液中でライ ゲーション反応を行うことで、物理的に近いDNA断片同士が結合する。あとはDNAを精製してPCRを行うことによって、ゲノム上では離れた場所に存在す る配列が核内で相互作用しているかがわかる。



トランスジェニックマウス



遺伝子導入マウスのことである。受精卵の雄性前核に導入したいDNAコンストラクトをインジェクトして、その受精卵からマウスを誕生させる。これらのマウ スのうちある割合のマウスにおいてインジェクトしたDNAが染色体中に取り込まれており、そのようなマウスは交配して維持することが可能である。さまざま な遺伝子やゲノム配列のin vivoにおける機能を研究するために作製される。






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