主要な研究テーマ


 当研究室では、生殖に関わるタンパク質分子の作用機作を明らかにすることを通して、生殖腺(特に卵巣)の機能を理解しようとしています。現在、具体的な課題として、以下のような研究を行っています。


(1)哺乳類排卵酵素の同定

 卵巣から卵が放出される過程(排卵)では、卵巣を覆う固い外皮が局所的に溶解する反応が起こります(下図)。この濾胞壁溶解過程では、各種蛋白質分解酵素の関わるカスケード反応が作動することが不可欠であるとされています。しかし、残念ながらその全容は未だ明らかになっていません。近年、当研究室のメダカを用いた研究から、濾胞壁溶解を行うタンパク質分解酵素(排卵酵素)の同定に成功しました。この発見には、魚類のみならず脊椎動物に共通の排卵機構を明らかにするうえで重要な情報が多く含まれていると考えています。現在、メダカの排卵酵素発見の情報を基に、未だ発見されていない哺乳類の排卵酵素を、マウスを用いて探索、同定することにチャレンジしています。

(2)排卵後の組織修復

 卵母細胞が卵巣外へ放出(排卵)された後、卵巣には排卵の過程でできた傷(卵巣を覆う膜が溶かされて卵母細胞が放出されるので、その部分には穴が開く:上の図内赤点線部分)ができます。生物の種類によって様々ですが、例えばメダカでは、一度の排卵で20〜30個の卵を産むため、排卵の過程できる傷もその数だけできます。ところが、メダカは24時間後には新たに排卵を行うため、この間に傷の修復が行われていると考えられます。この迅速な組織修復のメカニズムを解明することが当研究室のテーマの一つとなっています。もし、この迅速な組織修復のメカニズムが解明できれば、例えば、手を切ったとか手術によってできた傷口などをより早く治すことが可能になるかもしれません。

(3)排卵と卵成熟の間にコミュニケ−ションは存在するか?

 卵成熟した(受精能を獲得した)卵母細胞が排卵されることにより、受精が成立します。つまり、卵成熟と排卵の間には、何らかのコミュニケーションが存在すると予想されます。この研究課題では、卵成熟と排卵の間にどのようなコミュニケーションが存在するかを分子レベルで明らかにすることを目的に研究を進めています。

4)脊椎動物の濾胞選択機構の解明

 より質の良い卵を次世代へと提供することは、卵巣の重要な役割の一つと考えられます。卵巣には、卵子のもととなる原始濾胞が多数(ヒトの場合、数千個〜数万個)ストックされています。その中から、何個かの濾胞(ヒトの場合、数十個程度)が成長を開始し、最終的に何個かの卵(ヒトの場合、1個)が排卵されます。多くの濾胞の中から成長を開始する濾胞がどのようなメカニズムで選ばれるのか、また、成長を開始した濾胞の中からどのようなメカニズムで排卵する卵が選別されるのかを明らかにしたいと考えています。この濾胞選択メカニズムの研究は、如何にして質の良い卵を選別し、次世代へと提供しているかを理解する研究です。

(5)排卵時におけるメダカ排卵酵素MT2-MMPの局在

MT2-MMP(タンパク質分解酵素)を含む排卵実行酵素が、卵巣に穴をあけることで卵母細胞が卵巣外に出られるようになると考えられます。従って、当然穴の周辺に排卵酵素が局在していると予想されます。そこで、排卵実行のキー酵素であるMT2-MMPが排卵直前に穴ができる周辺の領域に局在しているかどうかを調べる研究を行ってます。






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