レポート・卒論の書き方初級編

社会人入試・通教・進学 - All About [社会人の大学・大学院選び]

見延 庄士郎

1.はじめに

科学技術の論文を書くのは,その扱う内容だけではなくどのような文を書くかという点においても,小説・随筆とは大きく異なっている.科学技術用の文章作成は,テクニカル・ライティンングと呼ばれている.テクニカル・ライティングとは,主として科学・技術的な内容を,論理的かつ分かりやすい文章に書く技術である.我が国は徒然草に代表される随筆・源氏物語などの物語(小説)には,世界に冠たる歴史と内容を有している.けれども,テクニカル・ライティングや論理的な発表は軽視されてきた(注1).この弊害は,諸君にレポートや卒業論文を書かせるとはっきり表れる.もっとも,問題は「今時の学生は日本語も書けない」というよく聞く意見に矮小化はできない.私が学生の時代にも大多数の学生は,論理的な日本語を書けてはいなかったし,多分それ以前もそうだろう.

小学校から大学に至るまで,論理的な日本語の書き方の教育はほとんどなされていないのであるから(注2),当然平均的な大学生は論理的な日本語を駆使できない.しかし,論理的に自分の意見を書き表す能力は,現在急速に重要となっており,テクニカル・ライティングは科学技術の世界から,様々なビジネスの世界への波及している.近いところでは,野口 悠紀雄の「「超」文章法」(中公新書)が2002年のベストセラー・リストに登場していたことを覚えている人も多いだろう.

さらに研究を実行することを考えるならば,切れ味良い論理構成は論文執筆時だけでなく,研究を進める上全般で必要であることを注意しておきたい.このために,論文執筆に現われる論理構成能力は,しばしば研究遂行能力とほぼ同一とみなされることもある.たとえて言うなら,論理構成能力は車の運転能力であり,優れたデータ解析や数値計算のスキルを身につけることは強力な車を持つことである.シロートが乗るF1の車よりも,F1ドライバーが乗るカローラの方がまず間違いなく速い.

そこで,論理的なレポートや科学技術論文を執筆する上で最低必要なことをまとめておこうと考えて,このドキュメントを執筆した.レポートの書き方初級編(この文書)では,学部学生を対象に実験レポートや卒業論文を書く場合に押さえておいた方が良い事項を解説している.なお, 論文の書き方中級編では,修士課程の学生を対象に修士論文程度,もしくは指導教官に見せる投稿論文の第一稿作成時に知っておいた方が良い事項を解説している.

注1)藤原 正彦は「若き数学者のアメリカ」(新潮文庫)の中で,日本の高校までの教育は知識を教えるが,アメリカの教育は議論の仕方などをみっちり仕込む,その結果ほぼ誰でも明晰に話すし,議論に強い(数学を教えていた著者よりも大学院生の方が強い),と述べている.両者の教育方法の優劣はそれ自体では明らかではないが,アメリカの大学生が知識をどんどん吸収するのに対して,日本の大学生が論理性を磨いているかというとそうではない.この点は近い将来修正の必要があるだろう.現在では,テクニカル・ラインティングの書籍は現在あふれるほど出版されているし,日本語技法の広場@高知大学のリンク集やにまとめられているように多くのWeb Siteで書き方が解説されている.ただし残念ながら,大学においてもいまだテクニカル・ライティングを組織的に教育しているところは多数とは言えないようである.

注2)新学習指導要領(いわゆるゆとり教育)では,国語は読解中心から,表現力を重視するように改訂されている.これが明晰な日本語の用法を浸透させることを願っている.

  

2. 節・段落・文(Section, Paragraph, & Sentence)

科学技術論文は,複数の節(sections)からなるのが一般的である.節に代えて章という言葉を用いるのは,博士論文などの大部の著作に限られる.各節は,複数の段落(paragraphs)からなり,段落は文(sentences)から構成される.

2.1 節(section)

科学論文の一般的な節の構成は次の通りである.この構成は,学部学生が取り組む実験や演習のレポートでも標準的なものであろう.
  1. はじめに(Introduction)
  2. データと解析手法(Data and Method)
  3. 結果(Results)
  4. 議論(Discussion)
  5. 結論(Conclusions)

以上の一般的な構成から逸れることもあるが,その際には読者が納得できるだけの逸れる理由がなくてはならない.これらの節で何を記述するかを,以下で説明しよう.

2.1.1 はじめに

「はじめに」では,関連する研究の紹介と問題提起をし、その問題を解決するために何を当該論文で行うかを,アプローチの概略を含めて手短に述べる.よく見られる論理構造は次の弁証法(正⇒反⇒合)に従ったものである.

ここででは比較的広い範囲をカバーし,ではより狭い特定の問題に焦点を当てることに注意しよう.つまり説明する内容は「一般から個別へ」であり,これは後で述べるように「議論」での内容が「個別から一般」であることと対照的になっている.

なお上の3つの論点をどう段落構成に反映するかは,使えるスペースに大きく依存する.字数や枚数に厳しい制限がなく,スペースが十分ある場合は,1論点を1段落以上を当てる.一方スペースが乏しい場合には(例えば1ページの要旨,2〜4ページのlettersやextended abstract),2つあるいは3つの論点を1段落に押し込むことが多い.

2.1.2 データと解析手法

「実験方法等の説明」では,「はじめに」で設定した問題を解決するために用いた方法を,他の研究者が追試可能なように述べる.

この節のタイトルは,研究方法にふさわしいものを選択する.例えば,「データと解析手法」「数値計算」「観測」などがある.

2.1.3 結果

「結果」は論文・レポートの最も主要な部分であり,2節で説明した方法で得られる事実と,それがどう「はじめに」で提起した問題に答えるかの論理を説明する.従って結果の記述は,単なる計算結果の羅列ではなく,読者の大多数が納得できる解釈や推論や意味付けという,論理の展開を含む.このような記述と,結果の後で1節をもって述べられる「議論」(もしくは考察)との違いは,提起した問題の解決に直接必要な記述は「結果」で行い,その「結果」を踏まえてさらに生ずる2次的な問題を「議論」で扱うことにある,とまずは考えるとよいだろう.たまに学部学生の実験レポートなどで,結果では計算で得られた表や図だけを出し,図の解釈を「考察」で行う例が見られるけれど,これは正しくない.図の意味を理解するのに必要な記述はあくまで「結果」の中で述べなくてはならない.

「結果」で説明する主な内容は,新たに得られた事項でなくてはならないので,過去の研究に触れることがあってもすぐに本筋に戻ろう.簡単な基準としては,過去の研究は1文で述べるのにとどめるとよい.まれに,過去の研究との関係を1パラグラフを費やして深く議論する場合があるが,これは1論文中1回だけにする方がいい.また,教科書などに説明されている一般的な事項も同様に1文で述べるか,より長い記述が必要な場合には「はじめに」か「付録」に移動させる.

2.1.4 議論

「議論」では,「結果」で得られた個別の問題についての情報が,より一般的な科学の世界でどういう価値を持つのかを説明する.つまり説明する内容は”個別から一般へ”であって,上で述べた「はじめに」での”一般から個別へ”と逆である.

議論で述べられる論点は多岐に渡るが,主要なものは次の3つで,このうちのいくつかを記述すればよい.

  1. 研究結果の位置づけ
  2. 他の研究との比較,または他の研究結果の再解釈
  3. 当該研究であり得る問題点と将来の課題
番号が小さいほど,書きこなすのに広い関連知識と読者の興味を把握していることが必要である.この要請に加えて,書く内容の自由度が高いこともあって,「議論」は論文中で最も書くのが難しい部分である.

2.1.5 結論

これまで述べてきた「結果」そして多くの場合「議論」を踏まえて論文の「結論」を述べる節である.「議論」と「結論」との2節にかえて,「まとめと議論」とすることも多い.しかし,明快な論文を目指すなら,やはり「結論」という節を置く方が良い.

2.1.6 レビュー論文の節構成

レビューの卒業論文の場合は,「はじめに」と「議論」「結論」もしくは「まとめと議論」は同じであるが, その間をどのように構成するかは研究論文とは異なってくる.通常,いくつかの節を立てて,レビューを行うことになる.特に包括的なレビューを行う場合には,節の題名にレベルを揃えるように注意しなくてはならない.例えば,「観測」「数値モデル」は並列な関係にあるが,「観測」「北太平洋における観測」であれば,同じレベルの節とはせず,後者を前者の中の小節(subsection)とするのが適切である.

またレビュー論文ではほとんどの記述は先行研究の紹介であるけれど,「議論」では自分自身の意見を書くことになるだろう.

2.1.7 レポートの感想

科学技術論文には無いが,実験レポートなどでは,「感想」を述べることも良いだろう.ただし,「感想」と「議論もしくは考察」とは区別しよう.単に苦労したというだけなら,感想の域を出ないが,それに対して例えば具体的な装置の改善を提案できるのであれば,非常に優れた「考察」が書けるだろう.単なる感想でも,その課題の問題点(難しすぎる・必要な情報が与えられていない)を指摘してもらえるなら,教官としてもありがたい.

2.2 段落(paragraph)

節もしくは小節を構成する,文章の単位が段落(paragraph)である.節の配列が定まると,レポートや卒論程度であれば,次は各々の節の内容をどんどん書いていくことが多いだろう.この場合に,注意するべきなのは,段落を適切に構成することで,意味のまとまりを分かりやすく配置することである.

意味のまとまりを作る上で重要なのは,その段落で何を述べるかをなるべく段落の最初の方で読者に知らせることである.この働きを持つ文(sentence)をトピック・センテンス(topic sentence)という(注3).トピック・センテンスは通常,段落の第一文もしくは,第2文に置かれ,その段落の内容を引き出す働きをする.このtopic sentence で引き出される範囲で段落を構成し,それから外れるものには別途段落を当てるか削除するのが,読んで分かりやすい段落の構成方法である.つまり,ひとつの段落ではトピック・センテンスで示される一つの事項について述べる.トピック・センテンスの書き方は大きく分けて,段落の中身を引き出す引き出し文と段落の結論までを含めた要約文,の二つがある.

引き出し文の例として,「本研究で用いた数値モデルは,現実的では無いいくつかの仮定を用いている.」という文が,段落の第一文に来ているとしよう.この文から,それらの仮定がどのように数値モデルの結果に影響を与えているのかが,その段落において議論されることが予想される.また,その影響が重大であるのであれば,「従って,将来の研究において,より現実的なモデルを用いる必要がある.」という結論が導かれ,あるいはその影響が重大でないのであれば「従って,これらの仮定は現実的では無いが,その影響は小さく本研究はほぼ現実的な結果を再現していると言える.」という結論がこの段落において提示されるであろうというところまで予想される.このように,有効なトピック・センテンスを提示することは,読者の理解を助ける上で非常に有効である.

上のトピック・センテンスに代えて要約文をトピック・センテンスとするなら,「本研究で用いた数値モデルで用いられたいくつかの現実的では無い仮定は,数値計算結果に重要な影響を及ぼしてはいない.」とすればよい.一般に要約文の方が,理解が容易でありかつ下で述べるトピック・センテンスの拾い読みで文章全体の意味を知るにも適している.しかし要約文をトピック・センテンスに当てるのが困難な場合があることと,要約文ばかりでは文章が一本調子になりすぎることから,要約文と引き出し文のトピック・センテンスとを混在させて使うのが良いだろう.

良いトピックセンテンスとそれに対応したパラグラフからなる文章は,トピックセンテンスを拾い読みするだけで,その文章全体の概要を知ることができる.トピックセンテンスを斜め読みするのは,速読の基本的なテクニックでもある.文章を書いたら,各パラグラフの内容をトピックセンテンスがパラグラフの内容をきちんと引き出しているか,異なるパラグラフのトピックセンテンスは全体として論理の流れをきちんと作っているかをチェックすると良い.

また,段落の中の論理構成は直線的(「従って」,「つまり」などで論理が展開する)であるほどよく,「しかし」が2回以上出てくるのは避ける必要がある.2回以上の「しかし」が出てくるほとんどの場合は,十分に書き直しをしていないに生じており,1回しか「しかし」を使わずに書きなおすことができる.

なお通常,段落の開始は日本語の場合は全角1文字分のスペースを置き,英文の場合は1タブを置く.また,段落の最後には改行を入れ,段落と段落の間には空行を置かない.オンラインのテキストもしくは草稿では段落の間に空行を入れるものもあるが,印刷物の場合はそうしないのが一般的である.

注3)トピック・センテンスはアメリカでは小学生でも教えられるらしい.恥ずかしながら私はドクター取得のための論文が思うように書けないので,書き方をいろいろ調べて,30才前後で始めてトピック・センテンスという概念があることを知った.トピック・センテンスを意識することで,やっとある程度他人が理解できる英語が書けるようになったのではないかと思っている.

2.3 文(sentence)

sentence(文)とは,日本語の場合は読点(。)(最近は「.」も使われる)で区切られるものであり,英文の場合にはピリオド(.)で区切られるものである.

一つの文には原則として,一組の主たる主語と述語が存在する.例えば,「5月には水温は上昇する.一方,10月には低下する.」という2文は,2文目に主語(この場合は水温)が含まれていないので,それを含めるように書き換える方が良い. ただし日本語の文では,主語が「私」または「我々」である場合にはその主語を省略することが多い.例えば,「本論文では,日本の気温変動と全球的な気候変動との関連を同定する解析を行った.」は適切な文であるが,解析を行った動作の主体である「私」あるいは「我々」は省略されている.英文の場合には,"In the present paper, we analyzed to identify relationship between Japanese temperature changes and global climate changes." として主語weが明示されなくてはならない.

和文における「私・我々」の省略を除けば,主語と述語の組がなくてはならないという規則はあたりまえと感ずるかもしれない.しかし,和文の話し言葉や,書き言葉でも小説などでは多くの場合主語が省略されている.英語でも,小説では主語あるいは述語を持たない文が,和文ほどではないがある程度は見られる.なお,以下に述べる図・表の説明のタイトル文は例外で,述語を使用しない.

また文体は,「...である.」体がふさわしく,また単語の選び方も堅い表現が好まれる.これは英文にも共通している.科学技術の発表においても口頭発表では生き生きとした印象を与えるために,口語的な表現を使うことはあるが,論文・レポートでは堅い表現に統一するのが一般的である.例えば「とても」は「非常に」の方が,「エネルギーが伝わる」は「エネルギーが伝播する」の方が良い.

括弧を適切に利用することは,冗長な文を連ねないためには有効であるけれど,括弧を利用しすぎることは段落の論理構造を損なうので行ってはならない.括弧で示すのは,括弧なしで示す情報よりも一段重要性の低い情報である.しかし,なぜ重要性が低いのかは通常明示的に述べられない.したがって,括弧を使うのではなくて,なぜそれが重要性が低いのかを本文中で言及して,付加情報を述べる方が,段落の論理構造はより明瞭となる.括弧を利用する際の目安としては,文(主語述語の組)をそのまま括弧に入れることは避けるべきだろう.

括弧の使用とともに注意が必要な記述方法に箇条書きがある.漫然と箇条書きを使うと,一見もっともらしいが実はほとんど意味のない記述に陥るので注意しよう.箇条書きを使うには,まず箇条書きを説明する地の文で,なにについての箇条書きであるのかをはっきりさせる.次に,リストアップされる対象の性質を同じレベルで揃え,モレとダブりが無いようにする.これらのレベルをどう揃えるかや,モレとダブりをどう見出すかについてはバーバラ・ミントの解説*が優れている.

* バーバラ・ミント著グロービス監修「考える技術・書く技術」,ダイヤモンド社.この本は,マッキンゼーなどの世界のコンサルタント会社でビジネス文書の書き方を教えるバーバラ・ミントが,ビジネスで必要とされる文章の書き方とそのための考え方とを解説したものである.この本で解説されている内容は,理系のためのテクニカル・ライティング法と通底するところが多い.やはり論理的な文章は,科学技術であるかビジネスであるかを問わず,多くの共通点を備えるのであろう.

2.3.1 レビュー論文での注意

卒論のレビュー論文では,主語の無い文を無造作に使って,盗作状態になっている文がしばしば見られる.例えば,「ここで,...の解析を行った.」「次に,...の式の導出を行おう.」などの,文は卒論著者自身が解析や計算を行ったことを意味する.オリジナルの論文の著者が解析を行ったのであれば,「だれそれ(2000)は....の解析を行った.」「...の解析が行われた(だれそれ 2000).」などのように書かなくてはならない.なお,式の導出を自分も苦労して確認した,というのは論文で「(私が)導出した」とは書くわけにはいかない.科学の世界は,先着権を非常に重んじるので,上のような間違いは,盗作と言われても仕方ないのである.レビュー論文を書く場合には,主語の無い文で,「解析する」「計算する」「導出する」「実行する」のように研究の当事者でなくては不適切な動詞は使えない,と思った方が初心者には間違いがないだろう.

なお,どの論文にも書かれていない自分自身の意見を述べることは,レビュー論文であってももちろん許容される.もちろんpriorityを重んじる科学の世界では,オリジナルな論文と同じ意見を私も考えた,というのでは書く価値はなく,書くべき自分の意見は新しい必要がある.自分の意見を述べる際には,自分自身の考えであることをはっきりさせよう.一番簡単には,主語を「私は」とする.意見を述べる段落の最初の方で「この問題について,私の意見を述べる.」とはっきりさせた上で,主語なしの文を連ねることも可能である.また,「議論」の段落では,自分の意見を述べることが自然である.

3.図と表 (Figure & Table)

科学技術論文では主要な結果は主として図に,場合によっては表にまとめて提示される.図示するほど重要ではない結果は,文のみで紹介されることも多い.例えば,「解像度を倍にして計算を行っても,この結果はほとんど変化しない.」,という文は,解像度を倍にした計算を行い,図示した結果と同様の図をそれらの計算についても作成してあるが,読者に提示するほどのことは無いので論文には載せていないことを示している.どの図を提示し,どの図を提示しないかの判断は,論文の場合にはページ制限などに触れるか触れないか,また,論旨の流れを損なうことがないか,などから判断する.実験レポートや卒論では,あまり図を精選する必要はなく,どちらかといえば大目に図を提示するほうが良い.

一見してメッセージが伝わる図が,優れた図である.ある教授は,「計算は学生にやらせてもいいけれど,図は自分で作る.」と言っていた.そうでないと,一流雑誌に投稿するのにふさわしい図にするのが難しく,また自分でも満足できないのだろう.一流雑誌レベルとまではいかなくても,簡単にできる範囲で図を分かりやすくしておこう.特に図の軸(縦軸・横軸)は,各々なにであるかを図の説明文ではなく,図中に明記しよう.

3.1 図と表の使いわけ

図にも表にもできる内容ならば,図の方が表よりも直感的に理解しやすいので図にする方が良い.図にするのが難しいか,あるいは図にするほどデータの量が無い場合には,表を用いる.なお,図に示した結果を再度表(Table)にまとめることは不要な重複となるので,行ってはならない

3.2 図・表の説明文の書き方

図および表には必ず説明文(caption)をつける.図の説明文は図の下に,表の説明文は表の上に示す.草稿原稿を他人に見てもらう場合にも,説明文は必ず付けてから渡そう.

図・表の説明文は,「図1. 北太平洋の海洋表面水温.等高線は1度毎,太い等高線は5度毎である.」のように,必ず図・表の番号から始まる.この番号は,論文を通じて図・表のそれぞれについて連続し(図1,図2,...,表1,表2,...),本文に出現する順序につけられる.つまり本文中で図2が図1よりも先に出現してはならない.また,一つのFigure (図)の中に複数の絵が示されることも多い.この場合各々の絵はパネル(panel)と呼ばれる.パネルごとに(a), (b) などを付す方が本文中での言及においてもどのパネルについて述べているのか特定しやすく,読者が理解する上でも容易である.なお,通常の論文のように節ではなく章を使うような大部の論文または本の場合は,図1-2のように,章番号-章内の図の番号という番号付けも可能である.

説明文の図・表の番号に続く第一文は,述語の無い文を使う.この文をタイトル文と呼ぼう.タイトル文の後に続くのは,主語・述語のそろった通常の文でなくてはならない.なお,一つの図が複数のパネルからなる場合には,図の説明の第一文以外にも,「(c) 温度.」などというように,述語の無いタイトル文をパネル毎に用いることができる.図の説明がタイトル文から始まることは必須だが,パネル毎のタイトル文はなくても良い.

タイトル文に続く主語・述語のそろった文で,より詳細な図の説明を行う.この説明では,等高線の間隔,陰影の意味,線の種類や色の意味などを必ず説明する.さらに,図の重要なポイントを説明することもある.重要ポイントの説明は図と図の説明文だけを見て読者にもある程度メッセージが伝わるようにするためで,本文の記述とある程度重複してもよい.論文を読むかどうかを決める際には,まず題名を見て興味をそそられ,次に要旨を読んで何をしているかを把握し,そして図を見てどのような結果が得られているかの概要を理解してから,興味が持てる論文であるならば本文を読む,という順番で進む.従って,図を見てと図の説明を読むだけでも,ある程度の情報は得られるようにする方がよいのである.このため科学技術論文では一般に重複を嫌うにもかかわらず,図の説明文と本文との重複はある程度許されるのである.

なお,すでに出現した図と類似の図を使用する場合のタイトル文は「図3. 図1と同じ,ただし....について.」という要領で書くことが多い.英語でいけば,"Fig. 3. Same as Fig. 1, but for ....."となる.

4.引用(Reference)

論文では,自分が行ったことと一般的な知識以外は全て引用文献を示さなくてはならない.引用の示し方は,「...が見出された(Daresore 1997).」と文あるいは節の末尾に示すか,「Daresoer (1997)が見出した.」のように文の主語や目的語にする2つの方法がある.三人以上の場合は 「Miller et al. (1980), Millerら(1980)」のように,第一著者のみを表記することが一般的である.

また,「...と考えられる.」という文は往々にして,一般的にそう考えられているのか,著者(皆さん)がそう考えたのか,他の論文著者がそう考えたのか,があいまいである.この表現を若干変更して,「...と考えられている(複数の引用文献)」,「であろう.」,「との主張がなされている(引用文献)」,などとすれば,上のどの場合であるのかが,より明確になる.

卒論でレビュー論文を書く場合には,1文1文に同じ引用文献をつけるのは見苦しくまた分かりづらいので,例えば1段落の中身が特定の論文の説明であることが分かるように書いて,個々の文に引用文献を示さない方がスマートである.

5.書式(Format)

科学技術論文には,ほぼどの論文にも共通する暗黙の書式 Format がいくつかある.例えば,文の中では Fig. などと略記しても,文頭では Figure と spell out する.

単位付数字は,数字単位ともに,半角で書く.数字と単位の間は,単位と単位の間は,半角スペース一個分空ける「1.0 m s-1」.単位には分数は使わずに,必要があれば負のべき乗を使う..数値を列挙したり範囲を示す場合は,各々の数字に単位を付けずに,10, 20, 30 m s-1 や 10−20 m m s-1のにように,最後の数字にのみ単位をつける.また,数値と数値の間を結ぶのは,ロング・ダッシュ"−"であって,ハイフン"-"ではないことを一応注意しておく.多くの場合投稿時には,ロング・ダッシュかハイフンかは気にしなくて良いだろう.ただし,カメラ・レディの原稿を自分で用意する場合の最終版では,正しく使い分けよう.

なお,一部の単位記号では,数字との間に半角開けることをしない.これらの記号は,"%"(パーセント)・"o"(緯度経度あるいは温度の度)などである.これらの単位を用いた,列挙では,10%−30%, 100o−100oE, 5o−10oCなどのように,最後の数値以外にも%やoをつけ,東経のEやセッシのCは最後の数値にのみつける.もちろん緯度経度で列挙される数値の東経か西経または南緯か北緯が変わる場合には,120oE−120oW, 10oS−10oNのように,各数値にEWNSの記号をつける.なお,緯度・経度を両方示す場合には,緯度を先にして,「30oN, 140oEの地点」のように表す.

雑誌毎に異なる書式もある.特に,reference list (引用文献リスト)の形式,式番号の付け方(すべての式に付けるのか,節の番号を (1.1)のように付加するのか),本文中での式の引用の仕方(Eq.(1) か equation (1)か,単に(1)か)などは学術雑誌毎に決められていることが多い.その場合は,その規定に従うこと.

6.推敲・書き直し(re-write)

書くこととは直すことである.現在はパソコンのおかげで訂正を行うのは,手書きと比べて圧倒的に簡単になっている.とにかく書いたら見直す.良い文書を書くには,第一稿を書き上げるのに必要な時間の何倍もが,改稿に必要である.徹夜で卒論を書いて朝に提出するのでは(私もそうだったなあ!),よい文章にはなるはずがない.

6.1 チェックのポイント

見直す際には,大局から局所に向かうのが一般的だろう.論文・レポートの場合,節の構成は上で述べたように大体決まっているので,注意するべき大局とは,各節の中の構成,すなわちパラグラフの構成になる.この段階では,トピックセンテンスを中心にチェックすることが適当である.

  1. 各パラグラフのトピックセンテンスは適切な論理の流れを作っているだろうか?つまりトピックセンテンスだけを拾い読みして,文章の流れが分かるだろうか?
  2. 各トピックセンテンスは適切にパラグラフを引き出しているだろうか?
  3. トピックセンテンスが与える予想から,パラグラフの文がはみ出しすぎてはいないだろうか?もしはみ出しすぎているなら,削除するか別パラグラフを当てよう.

トピックセンテンスがきちんとしているのに,文章に説得力がないのであれば,書くべき内容が乏しいのかもしれない.

局所的には,文と文とが分かりやすく配置されているか,各文は適切に構成されているかを,チェックすることになる.具体的には,以下のチェックポイントを上げよう.

なお,大局レベルでは良いと思っても,細部を詰めて行くと論理の矛盾が明らかになって,結局ダメになる,ということもある.従って,最終的には文章全体を磨き上げ,大局レベルの構成も局所レベルの文と文のつながりや各文の中身を直して行く必要がある.

6.2 自己チェック

論文なりレポートなりが書きあがったら,少し時間を置いてチェックすることが必要である.一番有効なのは,1・2週間経ってから書いたものを読み直すことだろう.書いている際には,いろいろと考えながら書く.特にすっきりと書くことが出来ないところほど,いろいろなことを考えるものである.そのような部分は,書いた直後に読み直しても,「いろいろな考え」がまだ頭に残っているために,文章のまずい点に気が付かない,あるいは気がついてもやむを得ないと目をつぶってしまう.しかし,短期記憶の「いろいろな考え」が,ある程度時間を置いて除かれた後なら,より適切に自分の文章のまずい点を把握することができる.

6.3 他者チェック

自分でチェックするのに比べて他人にチェックしてもらえば,はるかに客観的な意見が得られる.最善を尽くして書いた文章を,他人に批判されることこそ,自己チェック以上に自分の文章作成能力を向上させるのに有効である.友人や同じ分野の若手研究者同士で論文を読みあいチェックしあうチャンスがあるなら,ぜひそのチャンスを生かしその関係を育てよう.もちろん学生・大学院生という立場であれば,指導教官から建設的な批判を受ける機会も最大限活用しよう.ただし,給料をもらうようになったら職場で指導を受けられるとは思わない方がいい*.

* マイクロソフト社では「泳げないならおぼれろ」と言う.

しかし他人の添削には限界もある.大局的な変更はほとんどの場合,赤ペンではできない.全面的に書きなおすしかない.したがって大局的な問題があれば,例えば「この辺りは何を言っているのか分からない」という程度の焦点を絞り難い意見をもらうか,あるいはその他人が直接書き直すことになる.後者の場合,元々の文の原型を留めないのが普通だが,さすがに指導教官でもなければそこまではしづらい.人間関係に角が立ちかねないためである.また,トピック・センテンスが機能していない場合には,他人にとって何を言っているのか分からないので,直しようが無いかもしれない.他人に見てもらう場合には,大局的なレベルの問題(上で述べたトピック・センテンスのチェック・ポイント1〜3)はクリアしておこう.

また自己チェックによって大局レベルの問題をクリアした段階は,局所的な改稿を無駄にしないためにも,他人に見てもらうのに良い段階である.自分で大局的レベルはOKだと思っても,他人の目ではアラも見つけやすいので大局的レベルの問題が発見されるかもしれない.また当該の分野についてより知識や経験のある目でみれば,不適切な主張であるかもしれない.大局レベルの問題を抱えたままさらに個々の文を改善しても,大局レベルの問題によって,そのパラグラフを捨てたりあるいは論理構成を大幅に変えなくてはならないかもしれない.こうなると個々の文を練り上げるのに使った時間と努力が無駄になってしまう.逆に言えば,各パラグラフの内容が大体固まったら,それをトピックセンテンスに書き上げて,その一連のトピックセンテンスを他人にチェックしてもらうのも良い方法かもしれない.

 

見延 庄士郎(), last modified  25, Jan 2003
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