植物の増殖・分化、再生、分化全能性の制御を調べる

植物の増殖・分化、再生、分化全能性の制御を調べる
動物も植物もたった1つの受精卵を出発点とし、幹細胞を生み出し、増殖と分化を繰り返すことにより、さまざまな種類の細胞を生み出し成長していきます。考えてみるとこれはとてもすごいことです。そしてこのように細胞分裂により、もとの細胞とは性質の異なる新しい娘細胞を生みだす分裂のことを不等分裂(または非対称分裂)といいます。
 不等分裂は多細胞生物の発生進化を理解する上で非常に重要な根本原理ですが、植物ではこの分子メカニズムはまだよくわかっていません。ゲノム解析により植物の不等分裂の制御機構は、植物特有のものだと考えられます。
 私たちはヒメツリガネゴケをモデルとし、この幹細胞の不等分裂制御に関わる遺伝子のスクリーニングを行い、これまでに細胞極性因子、細胞運命や幹細胞の自己複製に関わる因子等を見出しました。この過程で不等分裂にともない非対称に分配されるタンパク質を見出しました(写真)。非対称分配のしくみの解明は、多細胞生物が成立する上でとても重要なイベントです。さらに未知の細胞周期制御因子も見出し、これら因子の機能解析も進め、分子遺伝学的手法、分子細胞生物学的手法、ゲノミクスをはじめとしたオミクス解析などを駆使し、植物特有の細胞分裂や運命決定の分子機構の全体像を解明したいと考えています。
 また不等分裂の制御因子のいくつかが、細胞の全能性制御にも関わっていることがわかってきました。細胞の全能性とは、いったん分化した細胞がリプログラミングし、幹細胞化することだと考えられ、細胞周期の停止、再開といった過程が、全能性の制御にも密接に関わっていると考えられます。植物細胞の増殖と分化の分子ネットワークを解明することで、植物細胞がなぜ動物細胞よりも全能性に優れているのかを明らかにしたいと考えています。
本研究は、植物の細胞運命を人為的に最適化することを可能にし、農学や生命医学など広範な分野への応用展開が期待できる研究領域です。