環境応答と発生プログラムのクロストークの分子機構解明 —極限環境下でもよく育つ植物の開発を目指してー

環境応答と発生プログラムのクロストークの分子機構解明  —極限環境下でもよく育つ植物の開発を目指してー多細胞生物は、その発生段階や環境変化に応じて、細胞の数や種類を制御する必要があります。私たちは、ストレスホルモンであるアブシジン酸が、幹細胞の不等分裂を抑制し、ストレス耐性の細胞を生み出す等分裂へと切り替えていることを見出しました。このような分裂様式の切替えは、植物が環境の変化に適応して、細胞の種類または細胞運命を制御できる能力を示したものです。また、細胞周期を制御しているタンパク質がストレス応答も同時に制御している可能性を見出しました。このタンパク質が植物細胞の増殖とストレス応答のクロストークの鍵を握るのではないかと考えています。

このように環境ストレスと成長のプログラムがどのように制御しあっているのかを解明することで、極限環境下でもよく育つスーパー植物が開発できる可能性があります。

このために遺伝子ネットワークを網羅的に解析するシステム生物学的アプローチ(システムバイオロジー)を利用し、岩稜地帯や砂漠の緑化を目指します。

また一般にはコケ植物は乾燥に弱いと思っている人は多いのではないかと思います。しかし多くのコケ植物の細胞は、驚異的な乾燥耐性能力を持っています(Brood cell)。実に90%以上もの水分が失われてしまっても、細胞は死ぬことなく復活し個体を再生します。

私たちは、このような乾燥や高温、紫外線等のストレス耐性細胞を誘導する分子機構に興味を持ち解析を進めています。またコケ植物は土壌のない所に土壌を育む“パイオニア植物”です。Brood cellの秘密や環境ストレス耐性の謎を明らかにすることにより、連続悪環境下でもよく育つ植物の開発研究を行い、環境や食料問題などへの還元も目指します。紫外線や微小重力など宇宙空間での植物耐性試験もJAXA(宇宙航空研究開発機構)とともに進めています。