環境ストレスとゲノム進化

 

 環境ストレスが植物に与える影響について「ゲノム構造の変化と環境適応」いう側面から研究を行っています。具体的には環境ストレスと植物ゲノム内に存在するトランスポゾン活性の制御機構の研究を行っています。生物界においてトランスポゾンはゲノム内の大部分を占める構成要素でありゲノム構造を変化させる強力な要素と考えられます。トランスポゾンの転移はゲノム進化の要因となるが宿主ゲノムにとっては有害となる場合が多いため現在までに報告されているほとんどのトランスポゾン配列はDNAのメチル化やヒストン修飾により活性が抑制されています。しかしながら自然界ではそれらのトランスポゾン配列は多くの生物種のゲノム内に広く拡散しており、いつどのようにして拡散したのかという疑問に対する明確な答えは得られていません。また遺伝子内や近傍に挿入されたトランスポゾンはその遺伝子の発現を変化させることが報告されています。これらのことからトランスポゾンはゲノム構造や遺伝子発現を変化させることで生物種の進化の大きな原動力となってきたと考えられます。環境ストレスは遺伝子やトランスポゾン配列のエピジェネティックな修飾に影響を与えることが報告されています。このことは、環境ストレスによって活性化されたトランスポゾン配列がゲノム構造の変化、遺伝子発現の変化をもたらし、その結果環境適応能力を獲得した個体を生み出してきたと考えることができます。この仮説を検証するため植物においてストレス条件下で活性化するようなトランスポゾンとそれを制御する遺伝子に焦点を当て研究しています。実際に環境ストレスにより活性化されるトランスポゾンがゲノム構造の変化、遺伝子発現の変化をもたらし、その結果ストレス耐性のある個体が得られればトランスポゾンが植物の環境適応に重要な役割を果たしているということを実証することができると考えています。


2011年3月13日 Natureに論文を発表しました。

詳しくはhttp://www.sci.hokudai.ac.jp/bio/info/2011/03/post-35.php

論文はこちら

日本語の解説(レビュー)はこちら

 

2010年9月20日~23日に北海道大学で行われた日本遺伝学会第82回大会で伊藤 秀臣 助教の発表がBest Paper賞に選ばれました。

演題は「siRNAによるシロイヌナズナ熱活性型レトロトランスポゾンの世代間転移制御」です。この発表では植物において環境ストレスによって活性化するトランスポゾンの新規の制御機構の発見が高く評価されました。

発表要旨:トランスポゾンは多くの生物でゲノムの主な構成要素でありゲノム進化の重要な因子となり得るがその転移を制御する仕組みは詳しく理解されていない。我々はシロイヌナズナのcopia型レトロトランスポゾン「ONSEN」が熱ストレスで活性化することを見つけた。ONSENは転写が活性化し染色体外DNAを合成する。またsiRNA合成経路の変異体に熱ストレスを与えると次世代で高頻度に転移が観察されsiRNAがONSENの転移制御に関与することが示された。新規挿入箇所は個体間で異なることから転移は配偶子形成時期に起ることが示唆された。これらの結果からレトロトランスポゾンの新規の転移制御機構について発表した。