人材募集

海洋気候物理学研究室では,次のような分野に興味を持つ学生を募集しています.

現在展開中の研究テーマ

現在展開中のテーマには例えば以下のようなものがあります

では,これらの研究テーマを説明しましょう.

海洋フロントにおける大気海洋相互作用

地球の気候を考える上で,海洋が大気にどういう影響を与えるかは重要な問題です.しかし中緯度の海洋が大気変動にどう影響しているのかは,長年のしかも多くの研究にもかかわらずまだまだよく分かっていません.例えばエルニーニョよりも周期の長いいわゆる十年から百年の気候変動は,中緯度で振幅が大きいので中緯度海洋が大気に重要な影響を与えていることが強く示唆されていますが,具体的にどこでどう影響を与えているのかは分からないのです.

しかし最近の衛星観測(下図左)による表面風データの解析により,黒潮や湾流といった海洋フロント域では,明らかに海洋が表面風に影響を与えていることが判明しました.これは大気海洋相互作用を理解する上で,まさにブレークスルーです.また地球シミュレーター(下図右)に代表される数値計算の発展は,大気応答のシミュレーションでも従来とは全く質の違う計算を可能としています.

そこで我々も衛星データー,高解像度数値計算,高解像度現業解析・再解析データーを駆使して,この新しい発展している研究分野である海洋フロント域での大気海洋相互作用に,するどく迫ろうとしています.例えばM1 の高玉君はハワイ大学で開発された領域大気モデルを,北大情報基盤センターのスーパーコンピューターに移植し,日本付近の黒潮続流をはじめとする海洋フロントに対する大気応答のメカニズムと,その年々の変動を明らかにしようとしています.この領域モデルでは,下図に示すように解像度の荒いモデルでは表現できない,比較的小さな低気圧や降水バンドがよく表現できます.

領域大気モデルで得られた日本付近の気温(左・カラー),海面気圧(左・等高線),風速(右・ベクトル),降水量(右・カラー).

このような高低気圧に代表される数日スケールの現象と,月よりも長い時間スケールを持つ気候とはどう関係しているのでしょうか?これは非常に面白い問題です.本来地球の気候は多くの時間スケールが複雑に関係しています.しかし従来はその関係を解き明かすことはできませんでした.今こそ両者の関係を明らかにし得るだけの研究資源が利用可能になったのです.このように異なる時間スケールの相互作用を含めて大気海洋の間のフィードバックするアプローチを,我々は大気海洋におけるマルチ時間スケール相互作用と名づけています(下図).今後このアプローチにより,多くの世界をリードする成果を出して行こうとしています.

フロント域における大気海洋のマルチ時間スケール相互作用の概念図

十年規模変動

近年十年から百年の時間スケールを,十年規模変動と呼ばれる現象が注目されています.この時間スケールは,これまで多くの研究がなされたエルニーニョよりも長い時間スケールで,エルニーニョ以上に謎に満ちています.十年規模変動は,例えば気候変動の研究計画で世界で一番大きな「気候変動予測計画」(CLIVAR)の3本柱の一つとなっています.当研究室でもMinobe(1997, Geophysical Research Letter)で北太平洋に50-70年変動が存在することを提案したことを始めとして,大気・海洋の両面に渡って十年規模変動について多くの研究を行って来ました(論文リスト参照).なおこの論文は2006年まで184回引用され,これは日本の研究者が筆頭著者の気候変動論文では我々の知るかぎりで3番目に多い引用数です(注1).

十年変動研究では大気と海洋の相互作用が重要であろうと考えられていますけれど,特に大気がどのように駆動されているのか,がいまだに良く分かっていません.しかし最近では現実にある程度に通った十年変動が大気海洋結合モデルで再現されるようになりつつあり,メカニズムの解明,そして予測へと発展することが期待されます.我々の研究室でも,下図のように大気海洋結合モデルを動かし,メカニズムの解明に当たろうとしています.

大気結合大循環モデルで得られた十年規模の海洋(海洋表面水温,左パネル)と大気(500 hPa等圧面高度,右パネル)の同時変化.

十年変動ではまた,温度や圧力などの物理量だけでなく,海洋中の栄養塩や酸素,そしてpHにも最近興味を持っています.これらの量は,海洋生態系や二酸化炭素循環でも重要な指標となり,その長期変動は国際的にも大規模な解析が始まったばかりです.今後温暖化が強まる地球環境のモニターという意味も含めて,この方向の研究は今後大きく重要性を増していくでしょう.

注1:ISI Web of Scienceにより,climt*をタイトル・要旨・キーワードに含む論文で調べています.ちなみに一位はSaji et al. 1999のインド洋ダイポールの論文,2位はNitta and Yamada 1989の70年代のレジーム・シフトの論文です.また気候レジームシフトを20年変動と50年変動の同期であることを提案した,Minobe(1999)も92回の引用を受けています(和文解説はこちら).

望ましい資質

当研究室に望ましい資質は,

です.また行動では

を推奨しています.

ちなみに,学部段階で勉強しておくと良いのは,英語数学プログラムです.英文を速い速度で読めるならば,それだけでも役立ちます.英語のホームページを読んだり,娯楽用の洋書を読むのも,podcastを聞くのもいいでしょう(注3).数学は研究の基礎になります.プログラムは学部段階で慣れていなくても大丈夫です.プログラム言語としては,我々の研究室ではMatlabとFortran 90を使っていますが,慣れるという点では他の言語でも全く問題ありません(注2).プログラムの基礎概念(サブルーチン,関数,繰り返し,条件分岐など)は言語を問わず共通です.

注2:ただしFortran 77だけはやめましょう.プログラムに悪い癖がつくし,効率が悪い言語ですから.誰から聞いたのか忘れましたけれど,Fortran77は1977年以前に生まれた人しか使ってはいけないそうです.

注3:最近見延はipodを買ってpodcastにはまっています.Nature, Science, CNN, NHKなどですね.何ヶ月かすれば英語耳になるかな?

卒論・修論

卒論は研究(新しいことをやるべく手を動かす)演習(既に知られていることを自分でもやる・レビュー(論文紹介)のどれか(注4),修士論文は研究です.いづれにしても大事なのは,自分がやりたいことをやることでしょう.ただし自分がやりたいことを,と言っても学問細分化した今日,4年生や修士1年で具体的にどういう研究を行うかを自分で見つけることはどの分野でもほぼ不可能です.なぜなら,新しいテーマを立てるには,研究しようと言うテーマに関連する知識を相当に得て(注5)何が新しいかを知り,研究手段についても経験を積み考えているテーマが実現可能であることを見極められる必要があります.したがって,良いテーマを見つけられる能力は,実は研究者として身に付けるべき能力(研究の実行・論文の執筆・研究の計画)の中で最後に獲得する能力になるのです.海洋気候研究室では大体上のような研究分野について,学生の興味・関心を生かすよう教員と学生が相談してテーマを選んでいます.

注4:学生から「レビューと研究のどちらがレベルが高いんですか?」とか「どちらが難しいですか?」という質問を受けることがあるけれど,どっちかが楽もしくはレベルが高いということはない.レベルの高いレビューは凄いし,レベルの高い研究はやっぱり凄い.

注5:「気候変動分野は論文の数が多すぎて,読むのが大変だ.」ととあるアメリカの研究者に言ったら「そうだそうだ」と言っていた.でもあっちは母国語だから我々よりも読むの楽だよなー.日本語だと速読できるけれど,英語はなかなかそうはいかない.アメリカで数年過ごした日本人も,「書く速度はアメリカ人に負けないが,読むスピードははっきり違う」,と言っていた.

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