研究紹介

研究室における現在のテーマ

1)アラスカ・ユーコン河の流出に与える林野火災・氷河融解の影響評価に関する研究(2004~)

  • ガルカナ氷河2009
  • ガルカナ氷河2004

 左上の写真(2009年9月撮影)は、中央に見える氷河の底から融解水が流出し、河川を発生させている様子を示します。この氷河は、アラスカ・ユーコン河の源頭部にあるガルカナ(Gulkana)氷河です(下図のPC地点)。2001年から2009年まで、氷河が解ける6月~8月の間,この氷河流域からの水・土砂流出量をモニタリングし,地球温暖化などの気候変動に対する流出応答の仕組みを探ってきました。右上の写真(2004年6月撮影)は、同じ場所でのガルカナ氷河の様子です。2004年6月中旬にこの下流域で大規模な林野火災が発生し、約3ヶ月間燃え続けました。このとき、断続的に林野火災の煙霧が氷河域にまで達しました。写真はこの煙霧で氷河が覆われた様子で、天気は快晴ですが氷河がほとんど見えない状態になっています。この煙霧の影響で日射が遮られて氷河の融解が低下し、水や土砂の流出にも影響しました。最近の地球温暖化は、陸域の乾燥化をまねいて林野火災の多発をもたらす要因にもなっています。このため、氷河の融解や動きについて短期的な気候変動の影響を調べることも重要になっています。

 アラスカ・ユーコン河流域の調査は最下流部(右下の写真、2010年6月撮影:下図のPLS地点)でも行っており、このユーコン河の流出に氷河の融解や林野火災がどのように影響しているのかを調べています。下図の灰色部分はユーコン河の流域で、面積は日本国土の約2.4倍,東側上流部はカナダ領になっています。南側源頭部のアラスカ山脈には、マッキンレー山(標高6,194m)など氷河で覆われた高山帯が存在しています。特に、氷河面積の流域に占める割合はわずか1.1%ですが、夏季における氷河融解がユーコン河の水・土砂・POC・PONの流出に大きく影響しています。その特徴的な流出は、ベーリング海の生態系にも影響しているといわれ、2005年~2010年度には「ユーコン河のベーリング海への影響評価に関する研究」が実施され、今後の氷河縮退に向かう影響についても研究を進めています。

  • アラスカマップ1
  • ユーコン最下流部2010

2) 間欠開口型汽水湖群における水・物質循環の機構に関する研究(2010~)

 当研究室では、2009年から北海道の十勝平野沿岸部に点在する汽水湖群の一つ生花苗沼(オイカマナイヌマ)を対象として、水・土砂・化学物質の循環に関する調査を行っています。この汽水湖群では、流入河川の増水で湖水位が上がると砂州の一部を切り、ほぼ湖水の全量が太平洋に流出する(間欠開口)という特異な現象が見られます。汽水湖の陸側には後背湿地が存在し、丹頂鶴(特別天然記念物)、白鳥、サギなどの野鳥の生息地になっています。これまでの生花苗沼での水文調査では、右下写真のように砂州が閉じているときは、湖水が砂州を通して太平洋に地下水流出しているがわかりました。この成果は、2012年8月に国際誌のJournal of Hydrologyに掲載されました。現在は、過去における砂州の形成と巨大津波との関係をさぐり、物質循環に関する数値実験を実施しています。

  • 生花苗沼の測深・測量風景(2010年11月)

    生花苗沼の測深・測量風景(2010年11月)

  • 生花苗沼(左)と太平洋(右)(2010年11月)

    生花苗沼(左)と太平洋(右)(2010年11月)

  • 沿岸に咲くハマナス(2012年7月)

    沿岸に咲くハマナス(2012年7月)

3)十勝・生花苗川流域における土砂流出機構に関する研究

 降雨や融雪によって河川が増水すると、当然、河川水は土砂によって濁ります。しかし、その土砂の起源がどこにあり、どのように流出するのかをさぐることは、土砂災害予測の観点からも重要です。研究室では、十勝の生花苗川(オイカマナイガワ)を例として、森林に降った雨や積雪の融解によって、(1)水が土壌中をどのように浸透し河川に流出するのか、(2)このとき水は土砂をどのように浸食するのか、をさぐっています。ここでは、生花苗川で濁度・水温・水位も同時にモニタリングし、土砂流出機構の解明を目指しています。

  • 生花苗川流域 (2012年7月)

    生花苗川流域 (2012年7月)

  • 生花苗川と丹頂鶴 (2012年4月)

    生花苗川と丹頂鶴 (2012年4月)

  • 流域内の牧草地における観測

    流域内の牧草地における観測

4) 北海道の火山性深湖における不凍化の機構に関する研究(2010~)

 ケッペンの気候区分では、北海道は亜寒帯に属します。寒帯域と同様、亜寒帯域は地球温暖化に対して敏感で、特に冬季の気温上昇が高いことで知られています。この影響で、北海道の火山性カルデラ湖である摩周湖と倶多楽湖(くったらこ)は、21世紀初頭から冬季に結氷しない状態が頻繁に起こるようになりました。現在の気温上昇速度が維持されれば、たとえば倶多楽湖は2019年には不凍結湖になることが予想されます。現在、倶多楽湖で年間を通して全層の水温を調べ、その熱循環の構造をさぐっています。この構造と外気からの冷却とのバランスがどうなっているのか、を明らかにすることが今後の課題です。

倶多楽湖(くったらこ):白老町

5) 地下水熱水系による周辺水域への影響評価(2013~)

 世界各国で水需要・エネルギー需要が高まっており、熱水系の解明による新しい水資源の開発や地下水・熱水の持続可能な運用が求められています。北海道、登別地区は高温・高塩濃度で酸性~中性の温泉が分布し,高いδD 値・δ18O 値などからマグマ起源の流体の寄与が推定されています.また隣接する第四紀火山の倶多楽湖(カルデラ湖)も含め、地域全体として9℃/100mと非常に高い地温勾配が報告されています。現在、登別温泉、倶多楽湖の水温を連続観測することで、地域の熱環境を探っており、今後は水質分析等も行うことで、地域全体の熱水系の解明を目指しています。

倶多楽湖(くったらこ):白老町

6)アジア・モンスーン流域における氷河融解の影響評価:過去・現在・未来

 アラスカやヒマラヤなどの高山帯にある氷河が、現在、急速に縮退していることは周知の事実です。この縮退は、現時点では氷河融解量の増加を意味し、氷河によって涵養される河川の流出に大きな影響を与えています。先述のアラスカ・ユーコン河はその例ですが、上流域にヒマラヤ~チベットの氷河域をもつバングラデシュ・ブラマプトラ河もその影響を強く受けていると考えられます。左下の図の灰色部分は、ブラマプトラ河流域を示します。右の写真は、ネパール・ヒマラヤにあるイムジャ氷河湖(湖面の標高5,010 m)の調査風景です。氷河の縮退に伴い、氷河上にはこうした氷河湖が形成され、現在も拡大を続けています。今後は、氷河の影響を受けた湖沼・河川の動きを過去・現在・未来にわたってさぐっていく予定です。

  • ブラマプトラ河流域
  • イムジャ氷河湖

特記) 学生実習

特記:札幌市郊外の定山渓には実験流域があり、毎年、院生・学部生が野外実習で河川流量の観測(下の写真左・中央:2012年4月撮影)を行っています。定山渓の自然に囲まれ、心の落ち着ける空間が魅力的です。また、毎年2月には研究室のメンバーで観測小屋の除雪(下の写真右:2006年2月撮影)に出かけています。帰りは定山渓温泉につかり、疲れを癒します。

  • 冷水沢観測 流観20121
  • 冷水沢支流 20121
  • 冷水沢除雪 2020061

このページの先頭へ