稲津教授へのインタビュー 佐藤准教授へのインタビュー

稲津教授へのインタビュー

稲津教授の近影

稲津先生の研究について、できるだけ簡単に教えてください。

私の専門分野は気象学です。気象といえば天気予報を思い浮かべる人が多いと思いますが、予報を行うのは気象庁の業務で、大学では研究を行います。たとえば、少し詳しい天気予報では紹介される天気図には温帯低気圧、台風、前線などさまざまな要素が含まれています。このような気象がどのようなメカニズムで出来て、互いにどのような関係にあるのか、といった「気象の謎」を解明しています。以前はシミュレーション一辺倒だったのですが、最近はデータの解析やフィールドでの観測など、その目的のためには手段を選ばなくなってきました。

気象学研究室は、どんな研究室ですか?

かつては雪の結晶で有名な中谷宇吉郎の系譜を受け継ぐ雲や雪の科学で世界をリードしていて、1990年代はレーダーによる気象観測を熱心にやっていました。その研究室が2006年に閉室になり、2017年に新設されました。2006年より前といまとではスタッフが違うのでかつてのテーマをそのままやることはできませんが、地球規模から地域までスケールを問わず、寒冷地の気象を中心に研究課題に取り組んでいます。また、数理科学との協働で新しい視点や技術を取り入れることや、諸科学との連携で気象学を応用することにも積極的に取り組んでいます。

先生が気象に興味をもったきっかけは?

もともと計算が得意で、地図を見るのが好きな少年でした。そのようなベースがあって、中学2年の理科でやる気象は地図の上に数値がのった世界で、授業を受けたときに興味を持ちました。ラジオの気象通報を聞きながら、それを片っ端から天気図に描き込んでいくと、その地域の様子が手にとるように分かる。それが楽しかったです。その後、高校生になって、オゾン層の破壊や大気汚染、公害などがクローズアップされており、環境問題に関心を持つようになりました。それらを解決するために、気象を数学を使って定量的に理解したいと考えるようになりました。これが、気象学の世界に進んだきっかけです。実は、大学入学当初は気象庁の職員になって気象データをとる現場にいきたかったのですが、大学時代にお世話になった先生の一言をきっかけに研究の世界に進むことにしました。

授業風景

研究室に入るまでに、どんなことを勉強しておけばいいですか?また、先生はどんな勉強をしていましたか?

よく聞かれる質問ですが、答えが難しいです。ただ、「人ぞれぞれ」というのは、教員としていささか無責任な気もするので、あえて勉強しても損のなさそうなこと一つをいいます。英語です。とくに北大では学部2・3年生で英語の講義を受ける必要がないため、英語力のピークは受験終了時ということはよくあります(とはいえ、昨今の学生の英語力はかつてより高い印象です)。研究室に入ると、過去の研究を知るには英文で書かれた論文を読むことになります(理系なら、おそらくどの研究室でも同じです)。また、研究者を目指す人は研究成果を英文で書いて論文としなければなりません。グローバル社会なので英語力は就職してから役に立つこともあるでしょう。私は英語があまり得意ではなかったので、学部のころは意識して勉強していました。いまでも英語に関しては鍛錬がいると思っています。

先生の担当講義を教えてください。

理学部地球惑星科学科2年生第1学期の「地球惑星科学のための物理数学Ⅰ」と「地球惑星科学のための物理数学Ⅰ演習」、3年生第2学期の「地球惑星科学実験3」、大学院理学院自然史科学専攻修士課程の「大気科学特論」です。全学教育科目「地球惑星科学のフロンティア」と大学院共通科目「突発災害危機管理論」もオムニバスで担当しています。

この研究室で学ぶと、どんな知識や技術を習得できますか?

学生のみなさんの努力次第ではありますが、データ解析やシミュレーションを行うので、日々の研究活動を通じて、コンピュータの知識と技術は身についていきます。もちろん、研究室に入る時点でコンピュータに詳しくなくてもまったく問題ありません。スタッフや先輩たちから学ぶことで、自分でプログラムを書くこともできるようになるでしょう。それから、気象学の研究の原点は身近な日々の天気であるわけで、研究とは別に独自に勉強する必要はありますが「気象予報士」の資格を取った学生もいました。研究と「気象予報士試験」で知識が共通の部分は使えますし、研究室には気象予報士試験の過去問があります。博士課程になると、国内外の学会等で発表する機会もあり、こうした場所で多くの研究者と出会い、アドバイスをもらったり知見を広めたりすることができます。

人生初の観測

学生指導はどのようにやっていますか?

自由は何より大切だと思っています。あまり学生を縛らないように、自主性に任せるようにしています。とくに気象学でやりたいことがある人には、なるべくやれるようにしようと努力しています。一方、突然、「好きなことやっていいよ」と言われても戸惑う人もいるでしょうから、学生の志向や資質を踏まえ、研究テーマを複数、提示することもあります。また、研究室に配属されて初年は毎週、相談する時間を設けて、困ったことを解決し、早めに研究の楽しさがわかるように心がけています。さらに、研究者志望の学生には、早い段階で英文論文を執筆するように勧めています。論文執筆は研究のプロとして必須の技能ですが、修得には大きな努力と長い時間が必要だからです。

最後に、学生のみなさんへメッセージをお願いします。

教員・在学生一同、新しい研究室を作り上げるような意識でおります。興味のある人はぜひ研究室をお訪ねください。その上で、気象学研究室のメンバーの一員となってくれれば、ありがたく思います。

佐藤准教授へのインタビュー

佐藤准教授の近影

佐藤先生の研究について、できるだけ簡単に教えてください。

主に数値シミュレーションを使って、雲や大気中の微粒子(エアロゾル)の研究をしています。この数値シミュレーションは気象シミュレーションとも呼ばれます。皆さんにとって気象シミュレーションの最も身近な例は、毎日の天気予報やPM2.5などの大気汚染物質の予測ではないでしょうか。この気象シミュレーションを駆使して、雲粒一つ一つが発生して雨として降ってくるまでの様子をコンピューター上で再現して、主に雲を対象とした研究をしています(下の図1)。具体的には雲粒子の成長や雲の発達・生成メカニズム、それらにエアロゾルが与える影響の解明に取り組んでいます。最近では、雲に関連する研究テーマとして、雷の発生メカニズムにも興味を持ち、研究を始めています。 同時に気象シミュレーションを行うためのシミュレーションコード(気象モデル)の開発にも、理化学研究所を始めとした国内の様々な研究機関や大学と連携して取り組んでいます。

先生が気象に興味をもったきっかけは?

もともとは気象よりは宇宙や天体に興味がありました。中学生の頃は、流れ星を写真に収めるために、自宅のベランダで夜中に星の写真撮影を行っっていました。宇宙や天体の研究も大変魅力的な研究テーマですが、もう少し身近な現象を対象としている気象学に取り組むようになりました。私は高校では、物理・化学を選択し、学部では物理学科に在籍したため、気象学を専門に勉強し始めたのは大学院に入ってからです。しかしながら、例えば雲粒が雨粒へと成長するときの計算が惑星形成の計算と似ているなど、物理学に共通する部分が多く、自分が学んできた内容を活かせると感じた点も気象学に興味を持った理由でもあります。また、もう一つの大きな理由として、私が大学の学部生の時に気象予報士の知名度が上がってきて、単純に気象予報士の資格と取るために気象学の勉強をする必要があったということもあります。資格取得のための取り組みが気象学に取り組むきっかけでもありました。

研究室に入るまでに、どんなことを勉強しておけばいいですか?

稲津先生のインタビューにもありますが、なかなか難しい質問です。個人的には数学、物理の勉強が重要かと思います。気象観測のデータを解析するとき、気象シミュレーションの結果を解析するときに数学・物理の基礎がしっかりしていると解析が進みやすいという感触を持っています。同時に、数学、物理の基礎を習得する過程で身につくであろう「論理的な考え方」というのが皆さんが考えている以上に研究では重要です。また、研究の最新の知見は英語で書かれていることがほとんどで、自分の研究成果も英語で書かねば世界から認められる研究にはならないので、英語の基礎は必須だと思います。私自身英語に関しては苦手な部分ですが、もっと勉強しておけばよかったと後悔しています。 またシミュレーションをするためのコンピュータの知識は要るか?という質問もよく受けますが、正直なところ、コンピュータの知識は研究室で研究活動を真面目にやっていれば自然と身につきますので、極端な話必要ありません(もちろん知識があるに越したことはありませんが)。それよりも数学・物理、それに英語をしっかりやっておくことを勧めます。

先生の好きな言葉は?

「陽はまた昇る」です。この言葉を多くの人は「辛いことがあっても、いずれ明るい未来が待っている」という意味か、それに似た意味に捉えると思います。私もそのような捉え方をしています。しかしながら、この言葉にはもう一つの捉え方があります。それは「何もしなくても、毎日、太陽は昇ってくる。つまり自分が何もしなくても世界は回っていく。だから漠然と毎日を生きるのはもったいない」という捉え方です。この捉え方を聞いた時に、毎日を大切に生きなければならない、毎日少しでも何かを成し遂げられるように頑張ろうと思ったことを鮮明に記憶しています。私の生き方を変えた言葉でもあります。

なぜ会社を辞めて研究の道に戻ったのですか?

よく聞かれる質問ですね。私の経歴をみると就職後に会社を辞めて研究の道に戻ったことがわかると思います。自分の興味を持った疑問点や、研究(仕事)を進めていく上での問題点を自分の裁量で突き詰められたり、問題点にとことん取り組むことができる点が研究の道に戻ってよかったと思う点です。ほかにも理由はいろいろあるので詳しいことは機会があれば答えます。しかしながら、私が働いていた会社の同期や先輩や上司の方々はみなさん私によくしてくれましたし、今でも連絡を取り合う仲です。会社を辞める時に他の会社に転職しよう思ったことは一切ありません(転職するくらいならその会社で働き続けようと思っていました)。

最後に、学生のみなさんへメッセージをお願いします。

身近な天気や雲や雨、雪という現象を感覚ではなく、研究対象として捉えて一緒に研究をしましょう。

数値シミュレーションによる層積雲の結果

(図1:気象モデルSCALEで計算した層積雲)