2020年度第1回雑誌会(2020.06.01)

2020 年度第1回雑誌会
日時:06月01日(月)15:00-16:30
場所:オンライン開催


紹介者:中䑓(M1)
タイトル:Earthquakes and tsunamis caused by low-angle normal faulting in the Banda Sea, Indonesia
著者:Phil R. Cummins, Ignatius R. Pranantyo, Jonathan M. Pownall, Jonathan D. Griffin, Irwan Meilano & Siyuan Zhao
雑誌:Nature Geoscience volume 13, pages312‒318(2020), doi:10.1038/s41561-020-0545-x

要旨:
活動的な地殻変動領域であるインドネシアは地震と津波の脅威に脅かされている。しかしながら、その構造の複雑さや観測データが不⼗分なことから、その解明が難しいとされてきた。これまでにインドネシアのバンダ諸島周辺では、少なくとも5つの壊滅的な地震が記録されている。これらの地震は、バンダ海下にある沈みの込み帯のメガトラストで発⽣したと考えられてきたが、この地域は、圧縮性ではなくスラブのロールバックによって拡張した地域であることが⽰唆された。本研究では1852年にバンダ海で発⽣した⼤地震に注⽬し、GPS観測と歴史地震および津波の解析とを組み合わせて調査をおこなった。これにより、1852年の地震も含め過去の破壊的な地震は、バンダ内弧に沿って発⾒された低⾓な伸⻑断層系が引き起こしたことを突き⽌め、これまで考えられてきたバンダ外弧の沈み込み帯に因るとする説を否定する結果となった。さらに1852年の津波は、地震時の直接的な海底変動ではなく、別の断層帯に沿ったスランプ(海洋堆積物の滑落)が引き⾦となったことも明らかにした。


発表者:渡部(M2)
タイトル:Spatial and temporal distributions of b-values related to long-term slow-slip and low-frequency earthquakes in the Bungo Channel and Hyuga-nada regions, Japan
著者:K. Chiba
雑誌:Tectonophysics 757 (2019) 1‒9, doi:10.1016/j.tecto.2019.02.021

要旨:
南海トラフ沿いの豊後⽔道と⽇向灘を取り巻く地域では、⻑期的なスロースリップ(SSE)と低周波地震(LFE)が繰り返し発⽣している。⻑期的SSEは、数か⽉から数年の期間で発⽣するゆっくりとしたすべりであり、沈み込み帯の巨⼤地震発⽣域周辺で発⽣する為、巨⼤地震と相互作⽤すると考えられている。LFE も同様に、沈み込み帯のプレート境界で発⽣するとされ、その発⽣メカニズムの解明が巨⼤地震の予測に繋がるとされる。また、地震の発⽣頻度と規模にはGutenberg-Richterの法則と呼ばれる経験則があり、地震の規模を表すマグニチュードが⼤きくなるにつれて、その規模の地震の頻度は指数関数的に減少することが知られている。この減少の程度をb値という指標で表す。b値が低いと、相対的に規模の⼤きな地震の発⽣頻度が多いことに対応する。室内圧縮実験から、b値は差応⼒や有効応⼒に反⽐例するとされ、プレート境界に沿ったb 値を求める事は、プレートの応⼒状態の解明に繋がるとされる。

本研究は、JUICE カタログを使⽤して、豊後⽔道と⽇向灘周辺のb 値の時空間変化を求め、SSE、LFEと⽐較することで、SSE・LFE発⽣のメカニズムや領域の応⼒状態を考察する。

結果として、b値の空間分布は、⻑期SSEの発⽣率が⾼い豊後⽔道と⽇向灘で、b値が低い値(b = 0.6‒1.1)となった。この結果から、SSE活動が頻繁な領域には、周囲の領域と⽐較して⾼い差応⼒が蓄積しており、SSE 活動は蓄積された差応⼒を部分的に解放していると考えられる。

また、b 値の時間変化は、豊後⽔道と⽇向灘で異なる結果となった。⽇向灘ではSEE に対応するb 値の時間変化が⾒られなかったことに対して、豊後⽔道ではSEE 活動の直前にb値が増加し、SSE活動が始まるとb値が減少する現象が繰り返し⾒られた。この2つの領域の違いはLFEの有無によるものと考えられる。Nakajima and Hasegawa (2016)によると、LFE は、沈み込みプレートの上部が不浸透性である場合に、沈み込むスラブからの流体の移動が遮られ、プレートの境界⾯に沿って間隙⽔圧が増加することで、発⽣が促進される。また彼らによれば、豊後⽔道と⽇向灘地下のプレートの状態はそれぞれ、不浸透性、浸透性に対応する。本研究で⾒られた、豊後⽔道におけるSSE に伴うb 値の増減は、豊後⽔道の不浸透性のプレート上部にスラブ由来の流体が⼊り込み間隙⽔圧が増加したことによるb値の増加と、その後LFE が発⽣し流体が枯渇したことによるb 値の減少を反映していると考えられる。


発表者:⽥中
タイトル:Feasibility to Use Continuous Magnetotelluric Observations for Monitoring Hydrothermal Activity. Numerical Modeling Applied to Campi Flegrei Volcanic System (Southern Italy)
著者:Rolando Carbonari, Rosa Di Maio and Ester Piegari
雑誌:Frontiers in Earth Science, 2019, 7:262, doi: 10.3389/feart.2019.00262

要旨:
⽕⼭災害危険度や地熱開発可能性を評価するためには,熱⽔系の振る舞いや時間発展のメカニズム,物理・熱・化学といった熱⽔系の現状の理解が必要である.これらの理解のためにはモニタリングが不可⽋であり,これまで地盤変動,全磁⼒,化学など様々な項⽬の観測が多くの熱⽔系に対して⾏われてきた.熱⽔の存在,温度や成分に敏感な電磁気探査(MT探査)も熱⽔系のモニタリングに有⽤な⼿法である.しかし,多くのMT探査が静的な地下構造を明らかにするために実施され,連続モニタリングの例は多くない.著者らは,MT探査の連続モニタリングの有⽤性を検討することを⽬的とし,熱⽔流動数値計算を⽤いたフォワードモデリングを⾏なった.熱⽔系が発達し,多くの観測研究が⾏われているイタリアのCampi Flegreiを対象とし,先⾏研究に基づいた浸透率構造,深部からの熱⽔供給を導⼊することで,熱⽔流動数値シミュレータTOUGH2によって⾃然状態を再現した.次に,1)深部からの熱⽔供給率増加, 2) 供給源直上の岩⽯の浸透率増加,という2つのシナリオに対する熱⽔系の温度・気相分率の時間変化および地表でのMT応答を計算した.その結果,シナリオ1では10年以内には地上で観測可能なMT応答の変化は発⽣しないこと,シナリオ2 では6 ヶ⽉から3 年の間に地上で観測可能なMT 応答変化が発⽣することが明らかになった.著者らは,この結果からMT連続観測はCampi Flegreiにおける熱⽔系のモニタリングに有⽤であると結論づけている.