2020年度第3回雑誌会(2020.06.15)

2020 年度第3回雑誌会
日時:06月15日(月)14:30-16:00
場所:オンライン開催


発表者:⽥中(M2)
タイトル:Long period (LP) events on Mt Etna volcano (Italy): the influence of velocity structures on moment tensor inversion
著者:C. Trovato, I. Lokmer, F. De Martin and H. Aochi
雑誌名:Geophysical Journal International (2016) 207, 785‒810, doi:10.1093/gji/ggw285

要旨:

モーメントテンソルインバージョン(moment tensor inversion, 以下MTinversion)法は、 地震波形を観測データとする逆問題を解いて発震機構や震源時間関数、震源位置等のソースパラメータ(逆問題のモデルパラメータ)を求める⼿法であり、主にLong period(0.2- 5Hz, 以下LP)の周波数帯やさらに低周波帯の地震波を射出する地震(イベント)を対象に⽤いられる。MTinversionでは、逆問題を解くためにグリーン関数を準備する必要がある。 グリーン関数は数値計算の際に仮定する地震波速度構造に依存するが、この時に仮定され る速度構造は⼀般的に現実の速度構造を簡単化したもので代⽤される(現実の速度構造と は異なる)ため、得られる解(ソースパラメータ)は真の(現実の)解からゆがんでいる可能性がある。

本論⽂では、MTinversionで仮定する地下速度構造の違いが推定されるソースパラメータへ与える影響を数値実験により評価した。研究で⽤いたフィールドはエトナ⼭(イタリア)である。はじめに、Branca et al.(2011)に基づいて作られる最も複雑な(現実に近いであろう)速度構造モデル(以下モデルS4)を⽤い、浅いソース(⼭頂から400m 下⽅)と深いソース(⼭頂から1200m 下⽅)のそれぞれに対応する、2 種類の模擬地震波形データを⽤ 意した。また、この模擬データを解析する際に仮定する速度構造(グリーン関数を計算する 際の速度構造)として、3種類の簡単化された速度構造モデル(均質速度構造(以下モデル S1)、表層にステップ状の低速度域を設けた速度構造(同S2)、表層の低速度域と下層とを勾配でつないだ速度構造(同S3))を⽤意した。そして、モデルS4 に基づく模擬波形デー タに対して3種類の異なる速度構造(モデルS1〜S3)を仮定した場合のグリーン関数を⽤ いてMTinversionを⾏い、3 種類の速度構造モデルそれぞれで模擬波形データのソースの再現を試みた。MTinversionの計算は、浅いソースと深いソースそれぞれにつき、

の全ての組合わせ(計18通り)で実⾏した。このとき、模擬波形データの作成に利⽤したモデルS4は地表⾯のすぐ下に強い速度コントラストを持つため、速度コントラストが反映されていないモデルS1〜S3によるグリーン関数を⽤いたMTinversion では、浅いソースのメカニズムは全体的にうまく再現されなかった。

次に、エトナ⼭で2008年に起きたLPイベントで得られた観測波形データを⽤い、ソースの深さを区別せず、先述の18通りの条件でMTinversionを⾏い、それぞれでソースパラ メータを推定した。例えば、ソースパラメータの条件として解の形をMTのみ、MTに与える制約をtensile crackとした条件での解析では、速度モデルS1〜S3全てでcrackのstrike が約300°、dip が約50°と解が安定したが、観測波形データとのミスフィット値は約0.8と ⼤きく、観測波形をあまり説明できなかった。

最後に、2種類の模擬データおよびLPイベントについて、推定されたソースの位置を固定したうえで、解析に⽤いる観測点の組み合わせを変化させながらMTinversionを⾏い、 得られるソースパラメータのrobustnessを調べた。 本論⽂では解析の結果から、以下の点を主に指摘した。


発表者:柘植(M2)
タイトル:Eruption Interval Monitoring at Strokkur Geyser, Iceland
著者:Eva PS Eibl, Sebastian Hainzl, Nele IK Vesely, Thomas R Walter, Philippe Jousset, Gylfi Hersir, Torsten Dahm
雑誌:Geophysical Research Letters, doi:10.1029/2019GL085266

要旨:

間⽋泉は,温泉⽔が⾮凝縮性ガスや⽔蒸気に駆動され,間⽋的に噴出する現象である.噴出周期は間⽋泉によって異なり,⼀定の場合もあれば,不規則であったり,bimodalやchaoticな場合もある.噴出周期は地下のジオメトリや,⽔温・⽔圧変化,気泡の発⽣・消滅などの物理過程を反映しており,間⽋泉噴出の⼒学や相互依存性の研究は⽕⼭噴⽕の理 解を進展させる点でも重要である.

Strokkur間⽋泉はGreat Geysir間⽋泉と並ぶアイスランドの代表的な間⽋泉である. Kieffer(1984)は,Strokkur間⽋泉で単発から最⼤5回連続の噴出を観測し,連続噴出回数と,噴出後に続く休⽌時間との間に正の相関を⾒出した.しかし,当研究は噴出周期を詳細に分類して解析していない.そこで,本研究では,Strokkur間⽋泉における噴出の連続回数 や規模と休⽌時間との関係を詳細に理解するために,広帯域地震計を⽤いて,2017年6⽉27⽇〜2018年6⽉6⽇の期間で観測を⾏なった.

地震計の記録から,Strokkur間⽋泉では,単発から最⼤6回連続の噴出が発⽣すること を確認した.連続回数でグループを分けてそれぞれの発⽣頻度を⽐較すると,単発が⼀番多 く,連続回数に応じて指数関数的に減少することがわかった.続いて,休⽌時間に対する次の連続回数の予測可能性を検討するために噴出前の休⽌時間(tbefore)を,連続回数に対する 次の噴出時刻の予測可能性を検討するために噴出後の休⽌時間(tafter)を抽出した.tbeforeと連 続回数との間に有意な関係は⾒られなかったが,tafterと連続回数との間には正の相関があり, 連続回数の増加に伴ってtafterは線形に増加する.

次に,連続回数と休⽌時間の関係を⼀般化するために,観測事実に合致する以下の仮定に基づいて,統計的な数理モデルを構築した;(1)休⽌時間は前回の噴出の連続回数に⽐例す る,(2)噴出の連続回数は,観測結果の指数分布に従うように確率を与えることによって決 まる.モデルを⽤いたシミュレーション結果は,各グループの発⽣頻度分布,そしてtafterと連続回数の相関関係について観測事実をよく説明した.

本研究の観測と解析結果から,観測した連続回数が既知であれば,次の噴出が起こるまでの休⽌時間を予測できる.ただし,次に起こる連続回数や規模は予測できない.Strokkur間 ⽋泉のような連続噴出を引き起こすメカニズムは,垂直管内の⽔温の不安定性から噴出を説明するBunsenモデルよりも,bubble trapからの気泡の放出で噴出を説明するMackenzieモデルの⽅が適するだろう.Mackenzieモデルなら,例えば,複数のbubble trap の存在や,蓄積した⽔蒸気の部分的な放出を仮定することによって,多様な噴出を説明できる(例えば,Honda et al., 1906).逆に,Strokkur間⽋泉の連続噴出のような,多様な噴出が存在するという事実は,BunsenモデルとMackenzieモデルを区別する指標にな るかもしれない.今後の課題として,著者らはStrokkur間⽋泉における連続噴出を説明す るための条件(bubble trapの位置や⼤きさ,噴出に関連する物理量など)を,さらなる調 査から制約する必要があると述べている.


紹介者:勝俣
タイトル:Train traffic as a powerful noise source for monitoring active faults with seismic interferometry 著者:Brenguier et al.
雑誌:Geophysical Research Letters, 9529-9536, 26 AUG 2019 doi:10.1029/2019GL083438

要旨:

室内実験では,活断層の近くで観測可能な地震波速度変化が,⼤地震発⽣前に起き得るという結果が出ている.しかし,実際には,活断層の地下深部の速度変化を,継続的に⻑期間モニターするのは,ほとんど不可能である.本論⽂では,⾞両等,特に貨物列⾞が⾛⾏する際に発する地動ノイズが,深さ数kmの地殻内部を継続的にモニターするための強⼒な振動源になることを⽰す.南カリフォルニアで実施された⼈⼯地震探査において,貨物列⾞から出た振動を2か所の地震計で観測し,相互相関を取ることによって,San Jacinto 断層の地下4kmを通過したP波の⽇々の波形が得られることが⽰された.貨物列⾞や⾼速道路を⾛る⾞の振動を利⽤するという,新しい⼿法を使えば,San Andreas断層系のほとんどの断層を モニターできるだろう.