2020年度第5回雑誌会(2020.06.29)

2020 年度第5回雑誌会
日時:06月29日(月)15:00-16:30
場所:オンライン開催


発表者:近内(B4)
タイトル:Precursory tilt changes associated with a phreatic eruption of the Hakone volcano and the corresponding source model
著者:Honda R, Yukutake Y, Morita Y, Sakai S, Itadera K, Kokubo K
雑誌:Earth, Planets and Space volume 70, Article number: 117 (2018), doi:10.1186/s40623-018-0887-4

要旨:

⼀般に⽔蒸気噴⽕は噴⽕の規模が⼩さいため予知は難しく、詳細なプロセスを明らかにできた例も少ない。しかし2015年に箱根⼭で起きた⽔蒸気噴⽕は2ヶ⽉以上前から異常が観測されていた上、⽕⼝近傍での⾼密度な観測ができたことから世界的にも注⽬されている。

本研究では⽔蒸気噴⽕に先⽴って観測された急激な傾斜変動に注⽬し圧⼒源モデルを推定した。傾斜のデータは6 つの傾斜計に加えて3 つの地震計に記録されていた傾斜記録も使⽤した。傾斜計と地震計それぞれについて1sサンプリング、100Hzサンプリングされたデータからグリッドサーチと最⼩⼆乗法を⽤いてbest-fit modelを求めた。グリットサーチにおけるサーチの範囲とステップ幅(カッコ内)は、以下のように設定した。
 [経度]139.01-139.07°(0.0075) [緯度]36.20-35.29°(0.0112)
 [⾼さ]909-659 m(27.7) [⻑さ]1000-3000 m(222) [幅]400-1600 m(133)
 [傾斜⾓]45.0-85.0°(4.4) [⾛向]200-350°(16.6) [開⼝量]1-7 cm(1.2)
その結果得られたのが以下の開⼝割れ⽬モデルである。
 東経 139.0325° 北緯35.2338° 傾斜⾓58° ⾛向 N316°
 ⾼さ 海抜854m ⻑さ2555 m x 幅1555 m
 開⼝量 4.6cm 体積変化 1.6×10^5㎥
本モデルはパラメータの深さ⽅向への精度が低く不確定性が残るが、今回の結果は本地域の最⼤応⼒の向きやInSARによる圧⼒源モデルとも概ね⼀致している。

傾斜変動の最初の約20s に注⽬すると、割れ⽬が閉じる⽅向から開く⽅向に向きが変化する逆極性の動きが記録されている。しかし傾斜変動の近似式と⽐較することでこれは⽕⼭活動を⽰唆しているのではなく、傾斜計の特性による影響であることが明らかになった。

また本モデルでは割れ⽬の幅は4.6cm と推定された。このように狭い⻲裂をマグマが上昇することは不可能である。本地域の地下構造や熱⽔分布を踏まえると、熱⽔の貫⼊により割れ⽬が拡⼤し傾斜変動が引き起こされたと⾔える。この熱⽔の貫⼊が今回の⽔蒸気噴⽕の最初の引き⾦となったのだろう。


発表者:⾼橋
タイトル:Crustal movement and strain distribution in East Asia revealed by GPS observations
著者:Ming Hao,Yuhang Li, and Wenquan Zhuang
雑誌:Scientific Reports 9: 16797, 2019, doi:10.1038/s41598-019-53306-y

GPS 観測データによる東アジアの統⼀的な速度場を推定した。利⽤したデータは、中国本⼟の全国網(CMONOC)の⽣データ、⽇本の地理院のGEONETと台湾の地震科学中⼼の座標時系列、論⽂に掲載されている速度データである。中国本⼟のデータはGAMITソフトウエアを⽤いて解析を⾏ったが、期間は2008年の四川⼤地震より前までとした。⽇本と台湾の座標時系列データは、⾮定常変動部を除いて直線フィットさせている。座標系として、中国を中⼼に⾒たいとのことから、南中国ブロックのオイラーベクトルを求めて、それに対する速度場に変換している。座標変換による誤差は1mm/yr以下と⾒積もられる。

インドプレートの北進やチベットや天⼭⼭脈の南北短縮などの従来からの特徴が⾒られている。⽇本周辺に注⽬してみると、北⽇本太平洋沿岸で⻄に40mm/yrだった速度は⽇本海沿岸では20mm/yr に減少し、⽇本海を渡ったロシア沿海州は中国東北部では6-8mm/yrに減少するものの⽅向は北⻄のまま⽅向である。北東中国ブロック南部では、張家⼝〜渤海に⾄る地震帯に向かって⻄北⻄⽅向の速度が4-5mm/yr から1-2mm/yr に減少する。琉球弧北部では14mm/yr の南⻄向きだが、南部では南向きに40mm/yr となる。台湾東部では年間20mmの⼤きな短縮が⾒られる。

ひずみに変換すると、プレート境界でのひずみ集中が⾒えてくる。台湾東部のフィリピン海プレート沈み込みによるものが最⼤で10-6/yrに達する。⽇本太平洋岸の圧縮歪はヒマラヤの主衝上断層よりも⼤きい。天⼭⼭脈⻄部とヒマラヤ主衝上断層の歪速度は同程度であり、チベット⾼原は従前の研究と⼀致する。最⼤せん断ひずみは、台湾・琉球弧・⽇本の順で⼤きい。ヒマラヤの東⻄部分も⼤きい。琉球弧はトレンチ直⾏⽅向の圧縮と平⾏⽅向の伸⻑である。

東アジアのテクトニクスは、インドヒマラヤの衝突と、太平洋プレートとフィリピン海プレートの沈み込みの重畳で形作られている。インドヒマラヤの影響はバイカルまで及ぶ。太平洋プレートの沈み込みに伴う粘弾性変形の影響が北中国ブロックの地震間変形場の原動⼒である。フィリピン海プレートの沈み込みは、台湾と中国南部沿岸に限定的に影響を及ぼすだけである。