2020年度第8回雑誌会(2020.07.20)

2020 年度第8回雑誌会
日時:07月20日(月)15:30-17:00
場所:オンライン開催


発表者:⽥中(B4)
タイトル:Sedimentary evidence of prehistoric distant-source tsunamis in the Hawaiian Islands
著者:Selle, S. L., B. M. Richmond , B. E. Jaffe , A. R. Nelson, F. R. Griswold, M. E. M. Arcos,  C. Chagué, J. M. Bishop, P. Bellanova, H. H. Kane, B. D. Lunghino, G. Gelfenbaum
雑誌:Sedimentology (2020) Volume67,1249-1273, doi:10.1111/sed.12623

要旨:

ハワイは太平洋の中央に位置しているため、近地津波だけでなく環太平洋造⼭帯で起こる海溝型地震による遠地津波の被害も受けている。このように津波が多い場所であるが、先史時代の津波についてはあまり調査が⾏われていない。

先史時代の津波の研究には津波堆積物が使われる。津波堆積物とは津波によって海底や海岸から運ばれた礫や砂や泥が堆積したもののことで、条件が良ければ地層中に保存されている。津波堆積物を調査することで過去の津波の規模や年代を知ることができる。

この研究は歴史時代の津波堆積物が今でも残っているか確認することと先史時代の津波痕跡を⾒つけ津波の発⽣履歴を明らかにすることを⽬的として⾏われた。

調査は、カウアイ島、オアフ島、ハワイ島の北側に位置する3つの湿地で⾏われた。それぞれの湿地を掘削し、現地で砂層の有無や特徴を記録した。いくつかのコアは研究施設へ運ば れ、CT スキャン、粒度分析、年代測定が⾏われた。CT スキャンは⽬視では分からない微細な構造を⾒るために⾏われた。粒度分析は砂層が津波起源か確認するために⾏われた。津 波堆積物は級化した層と級化しない層を持つという特徴があるため、鉛直⽅向の粒度組成の変化が調べられた。年代測定は津波の年代を知るために⾏われた。対象とする年代によって違う⼿法が⽤いられ、地表近くで発⾒された若い砂層にはセシウム137 使う⽅法が⽤いられた。深部で発⾒されたより古い砂層については放射性炭素年代測定が⾏われた。

調査の結果、津波堆積物と考えられる砂層が3枚発⾒された。上の2枚は1946年及び1957 年のアリューシャン地震津波によるものだった。深部で⾒つかった砂層は3地点すべて同じ年代を⽰し、約700 年前に堆積したものだった。この年代はアリューシャン東部で発⾒された先史時代の津波堆積物の年代とほぼ同じである。このことから、筆者らは今回ハワイ で⾒つかった津波堆積物とアリューシャン東部の津波堆積物は同じ津波によってできたもので、アリューシャン東部が波源だった可能性があると述べている。ただし、アリューシャ ン以外でも同年代の津波堆積物が発⾒されているため波源の決定にはさらなる調査が必要である。


紹介者:伊藤(M1)
タイトル:Fluid and Melt Pathways in the Central Chilean Subduction Zone Near the 2010 Maule Earthquake (35‒36ºS) as Inferred From Magnetotelluric Data
著者:Cordell, D., M. J. Unsworth, D. Diaz, V. Reyes‐Wagner, C. A. Currie, S. P. Hicks
雑誌:Geochem. Geophys. Geosys., 20, 1818‒1835, doi:10.1029/2018GC008167

要旨:

チリ中央部の沈み込み帯は、2010チリ・マウレ地震のように世界的に⼤規模な地震や⽕⼭の噴⽕が発⽣している。沈み込むスラブと⼤陸プレートにおける流体の流れと構造を理解できれば、地震活動と⽕⼭活動の両⽅についての信頼できるテクトニックな過程を明らか にできる。

本論⽂は、2010年チリ・マウレ地震が発⽣したチリ中央部付近(南緯35〜36度)の沈み込み帯を対象に広帯域、⻑周期のMT 探査を実施し、⼆次元インバージョンにより地下⽐ 抵抗構造を推定した。

チリ中央部とアルゼンチンの350kmに渡り広帯域、⻑周期のMT データを集め、磁北に対して15〜19度東に傾いた⾛向をとった。 Nazcaプレートの上⾯の低⽐抵抗領域は、沈み込むスラブから追い出された流体によるも のと推定され、そのメカニズムは、浅部では圧密(C1)、深さ40-90km では変成作⽤(C2 およびC3)であると考えられる。深さ130kmの低⽐抵抗領域C7は,背弧側での脱蛇紋岩化作⽤に伴って吐き出された⽔の付加によって⽣じた部分溶融メルトの領域と解釈される。 これらは、沈み込み帯の数値モデルで⽰された(Schmidt & Poli, 1998; van Keken et al., 2011; Völker & Stipp, 2015)ように、異なる深さで⼀つずつ⽳を開けていくように流体が流れ出ていることを⽰す。

スラブ境界の⾼⽐抵抗領域R1は、⾼密度異常の強いアスペリティに対応しており、 この緯度での⼤規模なメガスラスト地震の滑りに影響を与えていると考えられる。このR1 は、 Hicks et al.(2014)での、地震波速度が速い場所と⼀致し、この地域の沈み込み帯は、昔の⽕⼭弧に関係する⾼密度で低浸透率なかんらん岩による強いアスペリティを持つというHicksらの解釈を⽀持する。

⽕⼭弧の下の上部地殻には低⽐抵抗領域C4とC5 があり、それぞれTatara-San Pedro ⽕⼭とLaguna del Maule Volcanic Fieldの地下にある部分溶融メルトと考えられる。さらに深部の低⽐抵抗領域C6は,両⽕⼭の下に広がっており、熱的に成熟した下部地殻におけるネットワーク化したメルトの存在を⽰唆している。


紹介者:吉⽥(M1)
タイトル:Controls on sill and dyke-sill hybrid geometry and propagation in the crust: The role of fracture toughness
著者:Kavanagh, J.L., B.D. Rogers, D. Boutelier, A.R. Cruden
雑誌:Tectonophysics, doi:10.1016/j.tecto.2016.12.027

要旨:

マグマ貫⼊は,dyke, sill, dyke-sill hybridといった様々な形状を形成する.Kavanagh et al. (2013) において,ゼラチン(5~10℃, 2~5 wt%)が地殻をうまく模擬することが分かって いる.本論⽂の⽬的は,ゼラチン層を2層にして,ゼラチン層と境界⾯の破壊靭性を計算する⽅法を⽰し,dyke, sill, dyke-sill hybrid 形状の形成につながる条件を提案することである.

破壊靭性は,⻲裂のある物体に⼒学的な負荷が加わったときの破壊に対する抵抗であり, 本論⽂においては、破壊圧⼒(物体に⻲裂を開くために必要な圧⼒)と弾性圧⼒(弾性体に ⻲裂を開くために必要な圧⼒)が平衡であると仮定する. 破壊靭性 KIcは,以下の式を⽤いて計算される. 𝐾_IC = 𝐸𝐻√𝜋/ 2(1 − 𝑣^2)√𝐿,
𝐸:⺟岩のヤング率, 𝑣:ポアソン⽐, 𝐻:⻲裂の厚さ(𝑚), 𝐿:⻲裂の⻑さ(𝑚)

下層ゼラチンの破壊靭性K_ICGと境界⾯ゼラチンの破壊靭性K_IcIntを下層ゼラチン内に形成したdyke形状と境界⾯ゼラチン内に形成したsill形状の値を与えて推定した.

本論⽂では,2層のゼラチン(地殻)に⽔(マグマ)を注⼊する実験を11 回実⾏した. 変数は,容器の⼤きさ,上層と下層のゼラチンのヤング率の⽐(E2/E1),上層ゼラチンを注 ぐときの温度(Tm)の3つである.これらの値を変えて,その時のマグマ貫⼊形状を調べた. その結果,dyke, sill, dyke-sill hybrid 形状といった3種の形状が確認された.

実験結果から貫⼊形状ごとにKIc *=KIcInt/KIcG とTm に関連した特徴が確認された.1) K_IC* ≥ 1かつ𝑇m> 24の時,dyke形成, 2) 𝐾_IC* ≥ 1の時,sill, dyke-sill hybrid形成, 3) 2)の場合で,𝐾_IC*が⼩さい時,sill形成,である.下層ゼラチンの破壊靭性と境界⾯ゼラチンの破壊靭性の⽐がdyke, sill, dyke-sill hybrid形状の形成につながる条件になることが確認された. この結果より,下層ゼラチンの破壊靭性と境界⾯ゼラチンの破壊靭性が貫⼊形状を⽀配 するパラメーターであると結論づけた.