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研究内容

地すべりの地震学的検出

振動振幅の空間分布による火山性微動や地すべりの震源位置の推定

 地震の震源位置と発生時刻は、各観測点のP波などの到達時刻から推定される。しかし、火山下の流体が関係する火山性微動と呼ばれる振動や地すべりに伴う地震動は、その開始がはっきりせず、だらだらと継続する事例がほとんどである。従って、これらは震源の位置の推定すら十分にできなかった。

 地震(断層運動)などでは爆発と違い、方向によって励起される地震動の強さが大きく異なる。ところが、地下には多くの微細不均質性が存在するので、地震波がそれらに散乱され、数Hz以上の高周波数成分に限ると、どの方向でも大きく変わらない。特に、火山地域では浅部の不均質性が強いので、震源近くでもこの性質が認められる。そこで、火山性微動や地すべりでは、高周波数成分の振幅は、震源からの距離によって減少していくとみなしてよく、観測される振幅の空間分布から震源の位置を測定できるとことがわかった。

 2008年雌阿寒岳の噴火に伴う火山性微動を周辺の5つの地震観測点で記録された高周波成分の振幅の観測から、その震源の位置が噴火した96-1クレーターの南側、深さ約1kmであり、さらに時間とともに北東側のやや浅い部分へと移動したことがわかった。

 また、2013年10月16日未明には台風26号に伴う大雨により、伊豆大島・元町の東側山麓から大規模な地すべりが発生し、多くの死者を出した。この地すべりによると思われる地震動が島内の複数の地震観測点で同時観測された(図上)。各観測点の高周波数成分の振幅より、地すべりと思われる位置に震源がそれぞれ求まった。また各イベントごとに5秒間ずつ震源位置の変化を求めると(図下、☆から★へ)、下流の東側へ時速数十キロ程度での移動も推定された。今回の地すべりは複数回あり、それぞれの流れの様子も明らかになった。

振動振幅の空間分布による火山性微動や地すべりの震源位置の推定①
振動振幅の空間分布による火山性微動や地すべりの震源位置の推定②

参考文献:
Ogiso, M., and K. Yomogida, Migration of tremor locations before the 2008 eruption of Meakandake Volcano, Hokkaido, Japan, J. Volcanology Geotherm. Res.,doi:10.1016/j.jvolgeores.2011.12.005,217-218, 8–20, 2012.

日本列島周辺の上部マントル構造

日本列島及び周辺域の3次元S波速度構造と異方性

 日本列島には高密度な地震観測網が展開されています.それらを活用し,実体波の走時データを用いた高分解能な日本列島の地震波トモグラフィーモデルが多数提唱されています.しかし,日本海やオホーツク海のように,観測点がほとんど存在せず,浅部の地震活動も限られている海域の構造は,実体波のみで復元するのは困難です.一方,地球の表層に沿って伝わる表面波は,観測点が少ない地域でも,その浅部の構造を反映します.そこで,日本列島内の観測点と大陸内の観測点との間を伝わる表面波の観測情報を用いることで,実体波では捉えにくい縁海下の3次元構造の復元が可能となります.

 図1(左)は,復元された3次元S波速度の深さ60kmでの水平断面と,東北日本をまたぐ鉛直断面を示しています.日本海は,太平洋プレートの沈み込みに伴い,大陸縁辺部から日本列島が引き離されることで出来た背弧海盆ですが,厚さ約60km程度の海洋プレートのような高速度異常を持つことが分かります. 図1(右)は,鉛直異方性の空間分布を示しています.青い部分ほどSH波速度がSV波速度よりも早いことを示しています.特に東北日本直下のマントルウェッジ内において,顕著なSH>SVの異常が見られることが分かります.

日本列島及び周辺域の3次元S波速度構造と異方性

参考文献:
Yoshizawa, K., K. Miyake, and K. Yomogida (2010), 3D upper mantle structure beneath Japan and its surrounding region from inter-station dispersion measurements of surface waves, Phys. Earth Planet. Inter., 183, 4–19.

大陸プレート下面の3Dマッピング

オーストラリアプレートとその下面の3次元マッピング

 オーストラリア大陸は,地球上,最も古い大陸地塊の一つです.この大陸を乗せたオーストラリアプレートは,約4000万年前から現在まで,年間7cmもの速さで北上を続けています.これは,現在の大陸の移動速度としては最速です.大陸内ではほとんど地震は起こりませんが,その北側のインドネシアや東側のトンガからニュージーランド付近では,活発な地震活動が日々起こっています.これらの地震波の記録を大陸内部に設置した地震計で観測することで,オーストラリア大陸直下の詳細な3次元構造を復元することができます.

 図1は,深さ100kmでの大陸域の速度異常分布を示しており,大陸中央〜西部に見られる太古代のクラトン域において,顕著な地震波の高速異常が見られる一方,かつてプレートの沈み込みや火山活動の影響を受けていた東部では,低速度異常が見られます.図2は,このトモグラフィーモデルから,大陸プレート中央部の東西断面で,プレート下面の空間変化を推定した図です.大陸プレートの厚さはおよそ150〜200kmと推定され,特に,西部のクラトン(Yilgarn Craton)の直下で分厚いことがわかります.高速で水平方向に移動するオーストラリア大陸プレートの底では,固いリソスフェアとその下の柔らかいアセノスフェアとの間で,強いせん断応力が働くことにより,結晶の選択配向が起こると考えられますが,これは地震波速度の異方性として検出可能です.地震波解析からの情報を総合すると,大陸下のリソスフェア—アセノスフェア境界(つまりプレートの底面付近)はあまりシャープではなく,数10km以上の厚さの範囲にわたって,固い層から柔らかい層へと漸移的に変化していると考えられます.

図1

図2

参考文献:
Yoshizawa, K. (2014), Radially anisotropic 3-D shear wave structure of the Australian lithosphere and asthenosphere from multi-mode surface waves, Phys. Earth Planet. Inter., in press.

超巨大地震の多様性

2011年東北地方太平洋沖地震からわかった超巨大地震の多様性

 2011年3月11日のM9.0の東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震と呼ぶ)は、日本周辺の観測史上最大の地震で、津波などで多大な被害を及ぼした。東北沖の日本海溝で太平洋プレートが日本列島の下に8cm/年で沈み込んでいることで、プレート境界の浅い部分に長年蓄積した歪みが一気に解放され、200x400 km2に及ぶ断層面上で最大100m近くすべった(図左)。しかし、この地域ではM7クラスの地震しか知られておらず、断層運動の大きさを示す地震モーメント M0で2桁以上の地震は発生しないと考えられていた。

 従来知られていたM9を超える超巨大地震3つ(1960年チリ、1964年アラスカ、2004年スマトラ沖)だけでは、単に断層面積とすべりが大きいというだけの理解であったが、東北沖地震と比べると、その違いが歴然とする。スマトラ沖地震はプレートが沈み込む海溝沿いに長さ1200キロに及ぶのに対して、東北沖では断層面積は小さいがすべり量が非常に大きな領域が震源近くに集中している。

 また、超巨大地震の発生領域の通常の地震活動は海溝沿いまで広がり、大地震前には静穏化すると考えられていた。これに対して、東北沖では日本列島に近い深い部分でのみ地震活動があり、M7クラスの地震もここで(図右のCの領域)繰り返し発生するが、海溝軸付近の浅い領域はほとんど地震がなく、東北沖地震ではこの領域で非常に大きなすべりが発生した(C‘、よって大きな津波も生じた)。このパターンはチリ地震やスマトラ地震では認められないが、アラスカ地震の震源近くで、大地震で大きなすべりを生じた北東部分では類似の発生パターンを示す。

 スマトラ地震は海溝軸に沿っての複数の一列のセグメントが連動して超巨大になったのに対して、チリ地震はすべりの大きなセグメントが存在し、さらにアラスカ地震では一部が2列のセグメント構造となり、東北地震では海溝軸に沿ってよりも2列のセグメントの連動が巨大化の本質であることがわかった。

 このような超巨大地震の多様性の理解から、これまでの巨大地震の発生様式を再検討するとともに、将来の超巨大地震の発生する候補もより詳しく検討できる(例:北海道南東の太平洋沖)。

参考文献
Yomogida, K., K. Yoshizawa, J. Koyama, and M. Tsuzuki, Along-dip segmentation of the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake and comparison with other megathrust earthquakes, Earth Planets Space, 63, 697-701, 2011.

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