論文解説





2024年

Sato J., Satoh Y., Yamamoto T., Watanabe T., Matsubara S., Satake H., and Kimura A.P.

PTBP2 binds to a testis-specific long noncoding RNA, Tesra, and activates transcription of the Prss42/Tessp-2 gene

Gene 893: 147907

PubMed

精巣では非常に多くの種類の長鎖非コードRNA(long noncoding RNA, lncRNA)が発現しています。しかし、個別のlncRNAの機能、特に転写制御に関わる分子メカニズムに関して行われた解析はごくわずかでした。我々のグループでは、精巣特異的なlncRNAとしてTesraを同定し、Tesraが減数分裂に重要な遺伝子であるPrss42/Tessp-2遺伝子の転写活性化に寄与することを明らかにしました(Satoh et al., 2019)。本研究では、TesraによるPrss42/Tessp-2転写活性化の詳細な分子メカニズムの解明を目指しました。通常、lncRNAは何らかのRNA結合タンパク質(RNA binding protein, RBP)と結合して機能します。そこで最初に、Ribotrap法と質量分析法によってTesraと結合するRBPの候補を複数同定しました(Fig. 1)。その中でも強いスコアを示したPTBP2(polypyrimidine tract binding protein 2)に関して、精巣の発生段階別RNA-seqデータセットとqRT-PCRを用いた発現解析をおこなったところ、精子形成過程におけるPtbp2 mRNAの発現パターンがTesraPrss42/Tessp-2と相関することがわかりました(Fig. 2)。さらに、RNA免疫沈降法によってPTBP2とTesraが精巣生殖細胞の核で実際に結合していることも確かめました(Fig. 3)。PTBP2タンパク質はTesraPrss42/Tessp-2が発現する一次精母細胞に局在することがわかっていたため、私たちはPTBP2がTesraによるPrss42/Tessp-2の転写活性化に寄与する可能性があると考えました。そこで、Doxycycline(Dox)という薬剤依存的にTesraを転写誘導することでPrss42/Tessp-2のプロモーター活性を制御する細胞培養実験系を作り、検証を行いました(Fig. 4A)。この系では、Dox添加によってTesraの発現が誘導され、それによりPrss42/Tessp-2プロモーター活性が上昇しました(Fig. 4B,C)。そこでこの系においてPtbp2の発現をノックダウンしたところ、TesraによるPrss42/Tessp-2プロモーター活性の上昇が有意に低下することがわかりました(Fig. 5)。以上の結果から、PTBP2は一次精母細胞でTesraと結合して、TesraとともにPrss42/Tessp-2遺伝子の転写活性化に機能すると考えられます。本研究はこれまで報告が少ない精巣におけるlncRNA作用の分子メカニズムの一端を明らかにした貴重な一例となります。








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