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2016.5.26 ホームページを更新しました!

2014.4.01 科学研究費補助金 新学術領域「こころの時間学 — 現在・過去・未来の起源を求めて —」 公募研究に採択されました!

2012.4.01 科学研究費補助金 新学術領域「予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用」 公募研究に採択されました!

2009.10.01 科学技術振興機構(JST)のさきがけ研究(脳情報の解読と制御)に採択されました!



研究内容

本研究室の目指すもの
動物は外的環境からの刺激を受けると,脳・神経系でどのように行動するかを判断して運動を企画し,行動を実行します。ごく単純な反射行動を除けば,刺激の受容から中枢での情報処理,運動制御にいたる神経機構を完全に解明した研究はほとんどありません。私たちの研究室では,コオロギの空気流刺激で誘発される回避行動をモデルとして,いわゆる“入り口から出口まで”の神経回路とその情報処理内容の完全記述を目指しています。

研究方法

研究手法には,主に電気生理学と光学計測(蛍光イメージング)を用います。特にイメージングは,1個のニューロンの局所領域の活動を可視化したり,複数のニューロン活動の時空間パターンを解析したりするのに非常に強力なツールです。1個のニューロンや複数のニューロン群をカルシウム感受性色素や膜電位感受性色素で染色し,神経活動に伴う蛍光強度変化を顕微鏡に取り付けた高感度CCDカメラなどで撮影します。そして,動物にいろいろな刺激を与えたときや動物が特定の行動をしているときに,脳のどの細胞の,どの部分で,どのような活動が起こったのか,その時空間パターンを解析します。この2つの手法を柱として,薬理学的な実験やコンピュータシュミレーションと組み合わせ,遺伝子改変や遺伝子導入した動物での実験も行う計画です

研究テーマ
本研究室では主にフタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)を実験動物として用い,特にコオロギの気流感覚系とそれが引き起こす逃避運動制御系をモデルとして神経情報処理や運動制御に関する神経システムアーキテクチャに関する研究を行っています。現在は下記のようなテーマの研究が進行中です 。
  
   フタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)      気流感覚器官“尾葉”上の機械感覚毛

1.巨大介在ニューロンにおける刺激方向の情報抽出機構の解明

2.上行性投射ニューロン群による刺激方向情報のポピュレーション・コーディングの解析

3.定位歩行運動の方向性制御に関する神経機構の解明

4.昆虫における時間感覚の神経機構の解明(新学術領域研究2014-2015)
5.昆虫の刺激方向予測に基づく運動意思決定に関与する神経回路機構の解明(新学術領域研究2012-2013)
6.実行動下動物における方向情報の脳内表現と変換機構の解明と展開(さきがけ研究2009-2013)
7.コオロギ気流感覚系における空間認知の三次元バイアス解析
8.連続気流刺激に対するGIsの方向依存的「慣れ」に関する研究
9.コオロギ神経系での遺伝子コード型蛍光プローブによる神経活動イメージング


1.巨大介在ニューロンにおける刺激方向の情報抽出機構の解明
コオロギは尾部に一対の尾葉と呼ばれる気流感覚器官を持ち、気流を受容する感覚毛からの入力は最終腹部神経節内の巨大介在ニューロン群(Giant Interneurons: GIs)によって処理されています。GIsは1次感覚ニューロンから気流の方向や周波数の情報を抽出して脳神経節などの上位中枢に伝達すると考えられていますが,1次感覚ニューロンからどのように情報が抽出され,それが樹状突起上でどのように統合されているのかは不明でした。私たちは気流応答性機械感覚毛の全求心性神経終末群のアンサンブル・カルシウムイメージングを行い,気流刺激方向が求心性神経終末群の活動の空間パターンによって表現されることを明らかにしました(Ogawa et al., 2006)。また,最近では,感覚神経終末とGIとに異なるカルシウム感受性色素をそれぞれ導入し、二光路分岐光学系を使用してシナプス前後活動を同時イメージングすることに成功しました。その結果、各樹状突起分枝に重なる感覚神経の方向感受性が、入力箇所で抽出される方向特性を決定することが分かりました(Ogawa et al., 2008)。

8方向からの気流刺激に対する巨大介在ニューロン10-2のカルシウム応答


2.上行性投射ニューロン群による刺激方向情報のポピュレーション・コーディングの解析

刺激方向をはじめとする感覚情報は,脳内では特定のニューロンではなく,複数のニューロン群集団活動として表現されています(Population coding)。コオロギの脳や胸部神経節で読み出される気流方向情報も,GIsをはじめとする複数の上行性投射ニューロン群でポピュレーション・コーディングされていると考えられていますが,どのくらいの数の,どのような特性を持つニューロンがコーディングに関与しているのかは分かっていません。そこで,これらのニューロン集団の活動をマルチユニット・レコーディングや多細胞カルシウムイメージングによって計測し,その活動から逆に刺激方向を数理的に予測する(デコードする)ことによって,気流刺激方向の情報表現様式とそれに関与する神経回路を明らかにしようとしています。

上行性ニューロン群の気流応答(A)とあるユニットの刺激角度毎の発火パターンを示すラスタープロット


3.定位歩行運動の方向性制御に関する神経機構の解明

コオロギは尾部へ与えられる気流の方向によってそれから遠ざかる方向へ逃げようとします。最近,私たちのボール型トレッドミル装置を使って,刺激直後の素早い運動でもその移動方向やターン角度が,刺激角度依存的に制御されていることを明らかにし,その制御には脳からの下行性神経信号が必要であることを明らかにました(Oe & Ogawa, 2013)。GIsは気流刺激の情報を上位中枢に伝達し,逃避行動での方向性制御に関与していると考えられていますが,その方向性制御がどのような神経回路によって実行されているのかは分かっていません。そこで,トレッドミル上を歩行するコオロギから運動方向と神経活動を電気生理やイメージングで同時に記録して,その神経機構を調べています。どのGIsが運ぶ気流刺激の方向性情報が運動方向制御に用いられているのかを明らかにします。

歩行運動解析用ボール型トレッドミルシステム(左)と前後左右からの気流刺激で引き起こされた逃避運動の軌跡(右)

4. 昆虫における時間感覚の神経機構の解明(新学術領域研究2014-2015)
昆虫は時間を認識できるのでしょうか?彼らは,独自に進化した脳構造を持ちながら,高度な社会性行動,空間学習や刺激の同一性認識など,ほ乳類に匹敵するほどの高次脳機能を備えています。また,アリやミツバチでは刻々と変化する太陽高度や偏光をもとに餌場や巣の位置情報を得ていることから,脳内に日中の時間情報が存在することが示唆されている。しかし,昆虫が個々の刺激に含まれる時間情報を認識できるかについては,ほとんど分かっていません。そこで本研究テーマでは,コオロギに聴覚刺激を用いた二つの行動課題,すなわち①異なる持続時間を持つトーン音の弁別課題,②周期的な短いパルス音の欠落(オドボール)の検出課題を行って,コオロギが聴覚刺激に含まれる時間情報を認識できるかを調べます。さらに,課題遂行中に刺激の持続時間や刺激の欠落をコードする神経活動を記録・解析し,昆虫の感覚刺激の「時間情報」を認知する神経機構を明らかにします。

5. 昆虫の刺激方向予測に基づく運動意思決定に関与する神経回路機構の解明
(新学術領域研究2012-2013)
昆虫は,ほ乳類とは大きく異なる脳構造を持ちながら,社会性行動や学習・記憶などの複雑で洗練された適応的行動を示します。しかし,その行動決定に関与する神経メカニズムはよく分かっていません。そこで,昆虫の脳内における刺激予測と行動決定に関与する神経機構を明らかにすることを目的として,コオロギに気流刺激と音刺激を罰刺激に組み合わせた新しい学習タスクを実施し,昆虫が刺激方向を予測したモデルベースの意思決定によって歩行行動を起こせるかを調べます。


6. 実行動下動物における方向情報の
脳内表現と変換機構の解明と展開(さきがけ研究)
動物は刺激のやってきた方向を認識して、自分がどちらへ移動するかを決めます。そのためには、脳の中で「刺激が来た方向」という情報を取り出して脳の中で表現し、それを「自分が向かおうとする方向」に変換しなければなりません。本研究では、コオロギにいろいろな方向から音や風の刺激を与えて、刺激を受け取った時や歩行しようとしている時の脳の活動を光を使って計測し、「方向」の表現と変換を行う神経システムを明らかにします。

異なる8方向から気流刺激を与えたときのコオロギ脳神経節のカルシウム応答


7. コオロギ気流感覚系における空間認知の三次元バイアス解析

動物の遠隔性感覚による空間認知の分解能や感受性は一様ではなく,頭尾軸と背腹軸方向に偏り(バイアス)が存在します。しかし,それを生じさせた進化圧力の実体は不明ですが,重力方向と移動運動方向が影響したとする仮説があります。本研究テーマでは,コオロギ気流感覚系を材料として気流応答性ニューロンの3次元方向選択性を明らかにし,さらに姿勢変化させた場合と運動中の応答性に対する影響を調べることにより,重力と運動が空間情報処理に対するバイアス形成となるかを検証します。尾葉で受容された気流刺激の方向情報は上行性介在ニューロンによって、上位神経節に搬送されます。これまでに、これらのニューロンの水平面での方向感受性は調べられていますが、垂直面方向での方向選択性は不明でした。そこで、動物の頭尾・背腹軸・左右軸に直交する3平面上の異なる方向からの気流刺激を与えられる刺激装置によって,上行性ニューロンの3次元方向感受性を解析します。さらに、コオロギを直立にした状態で応答性がどのような変化するかを調べます。また,トレッドミル上を歩行中のコオロギから記録を行い,その運動方向と感受性の変化との相関を明らかにします。


3次元気流刺激装置


8. 連続気流刺激に対するGIsの方向依存的「慣れ」に関する研究

同じ方向から短い時間間隔で気流刺激を尾葉に連続して与えたとき,GIsの反応は次第に減弱する「慣れ」が生じます。私たちのこれまでの研究で,連続気流刺激によってGIs内にカルシウム蓄積が生じること,尾葉の感覚神経束を高頻度電気刺激したときに誘導されるGI中のカルシウム濃度蓄積が、感覚ニューロンとGI間のシナプスに短期抑圧を誘導することが分かりました(Ogawa et al. 2001)。最近,私たちは連続気流刺激を行った後,同じ間隔で異なる方向から刺激を与えた場合,「慣れ」を起こした刺激とずれた方向ほど,GIの応答の減衰は小さいことを見いだしました。すなわち,GIsの連続刺激に対する「慣れ」は,刺激方向に依存すると考えられます。そこで「連続気流刺激によってGIの樹状突起内に不均一なカルシウム蓄積が生じ、それが局所的なシナプスの短期抑制を誘導して、GIに方向依存的な慣れが生じる」という仮説を立て,それを検証するために,GIの電気的応答性の変化と細胞内カルシウム分布を解析しています。


連続気流刺激に伴う巨大介在ニューロン10-2の応答性低下(A)と樹状突起内のカルシウム蓄積(B)


9.コオロギ神経系での遺伝子コード型蛍光プローブによる神経活動イメージング

現在,神経科学分野においても蛍光タンパク質技術は欠かせないものとなっています。特定の遺伝子の発現やタンパク質の局在を可視化するだけでなく,蛍光タンパク質間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した新たなセンサータンパク質が設計され,神経細胞の活動や細胞内シグナル伝達を光学的にモニタすることができるようになりました。このような遺伝子コード型プローブは有機化合物プローブに比べ,細胞種特異的な導入が可能,組織深部まで均一な導入が可能,細胞への毒性が低い等の利点を持っています。さらに近年では光応答性タンパク質のチャネルロドプシン2やハロロドプシンを利用して,光刺激によって神経細胞の膜電位を人為的に変化させる手法が開発されました。このように蛍光タンパク質や光応答性タンパク質などの遺伝子コード型プローブを用いた光学計測/刺激法は,神経生物学における極めて重要なツールとなってきています。本研究室では,最近,in vivoエレクトロポレーション法を用いて,成虫のコオロギの脳神経節内でeGFPを発現させることに成功しました (Matsumoto et al., 2013)。現在,遺伝子コード型プローブの遺伝子を導入を進めています。

蛍光タンパク質を発現させたコオロギの脳神経節

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