アルベオラータ:奇妙な仲間達

〜渦鞭毛藻の系統的位置〜

 渦鞭毛藻類はとにかく変わった生き物である。外部形態そのものが特異であるし、鞭毛の構造も他に例をみない。単細胞生物であるにもかかわらず、一部の種類にみられる形態の派手さ、珍妙さはこの世の物とは思えない。さらに渦鞭毛藻核は生物界を見渡しても渦鞭毛藻類しかもたないという特殊な核である。葉緑体、光合成色素なども変わっている。このような特殊性から渦鞭毛藻類の生物界における系統的位置は永らく不明であった。分子系統学の成果は、しかしながら、この奇妙な生き物の生物界における位置についてもわれわれに示唆を与えてくれることとなった。それによれば、渦鞭毛藻類は繊毛虫類とアピコンプレクサ類と近縁であり、これら3群は単系統であるという。
 アピコンプレクサ類(Apicomplexa)は、遊走細胞の先端に特徴的な構造(apical complex)をもつことからその名がついた。全てのアピコンプレクサは脊椎動物または無脊椎動物に内部寄生する寄生性の原生生物である。3綱2400種を含む原生生物としては大きな分類群である。アピコンプレクサはトキソプラズマ症(Toxoplasm)など人や動物の感染症の原因となる。中でもプラズモディウムPlasmodiumはマラリアの原虫として恐れられている。
 一方、ゾウリムシParameciumに代表されるように、繊毛虫類はその特徴的な形態から顕微鏡で見れば誰でもそれとわかるグループである。従属栄養性で捕食のための細胞口をもち、大核と小核をもつことがこのグループの特徴である。水さえあればどこにでもいるというぐらい、ありとあらゆる環境に適応している。分布は広く、生態的にも重要なグループである。
 渦鞭毛藻類も約2000種を含む大グループで、これも質・量ともに生態的に重要なグループであることは間違いない。
 形態においてもこの3群には共通点がある。それは細胞外被の構造である。渦鞭毛藻の細胞外被(アンフィエスマ)の構造と基本的に同じ構造の細胞外被をアピコンプレクサも繊毛虫も、もつのである。この構造はcortical alveolusとも呼ばれることから、これら3群を一つの高次分類群としてまとめ、アルベオラータと呼ぼうという提案がなされている。アルベオラータは、それぞれ異なった“生き方”を選択し、そして繁栄することにそれぞれ成功した三つのグループを含む原生生物界の一大分類群なのである。
 渦鞭毛藻は葉緑体をもつが、これは渦鞭毛藻類が分化してから二次的に獲得したのであろうか?それともアルベオラータの祖先は光合成生物であったのだろうか?興味深い事実が知られている。それはアピコンプレクサには35kbの環状DNAが存在し、その遺伝子構成は他の生物の葉緑体ゲノムと似ているというのである。この小さな環状DNAが葉緑体DNAの名残であるならば、アピコンプレクサは光合成生物であったことになる。なんとも興味深い話ではないか。葉緑体の起源も含めてアルベオラータの生物学にはまだまだ謎がいっぱいである。


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