研究概要

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 「藻類 (そうるい)」とはどのような生き物でしょうか?

 「藻類」は、一般には「」ですとか、「かいそう」などと呼ばれたりしますね。「も」といえば、水の中にいる毛の塊のようなものだったり、ぐにゃぐにゃした柔らかいものをイメージするかもしれませんが、実際にほとんどの藻類は水の中で生活していますので、陸上で暮らす私達には馴染みのうすい生き物であるかもしれません。しかし、藻類は非常にバラエティーに富んだ面白い生き物なのです。


<海藻について>
 私たちに一番親しみのある藻類といえば、食卓を彩ってくれるコンブ、ワカメ、アオノリ、モズク、ノリなどの海藻があげられるでしょう。実際に海岸に行って岩場を歩くと、緑や茶、赤など色とりどりの海藻が生えているのを見ることができます。海藻類は、体の色によって、もっと厳密にいうと葉緑体の光合成色素と構造の違いによって緑藻褐藻紅藻の3つに大きく分類されています。たとえば、左の写真の「ベニイバラノリ」は赤い色の葉緑体を持つ紅藻の一員です。コンブやワカメは褐藻、アオノリは緑藻に含まれます。
 海藻は大きさもさまざまで、他の海藻の上に付着して暮らす1cmにも満たないものから、北海道東岸の波に洗われて育つ長さ20mにもなるナガコンブ、さらに外国にはジャイアントケルプと呼ばれる長さが100mに達する最大の種まであります。


<淡水藻について>
 藻類は海だけではなく、陸上の池や湖などの淡水中にも生育しています。池や田んぼの水底をのぞきこめば、緑色をした毛のようなアオミドロなどの淡水に棲む藻類、「淡水藻」を見つけることができるでしょう。


<微細藻について>
 海や淡水にすむ「藻類」は、肉眼で見えるような大きなものばかりではありません。海や池などの水を採ってきて顕微鏡でのぞいてみると、綺麗な模様のついた殻をもつ珪藻や、鞭毛でせわしなく泳ぎ回る渦鞭毛藻やミドリムシ藻などのたくさんの小さな生き物がすんでいるのを見ることができます。体がたった1個の細胞からなるこれらの生物も、細胞内に色のついた葉緑体を持っている「微細藻類」とよばれる藻類の仲間なのです。


<バクテリアにも藻類が>
 「藻類」に含まれる生物はそれだけではありません。上で説明した藻類はすべて細胞内に核を持つ真核生物でしたが、核やオルガネラ (葉緑体、ミトコンドリア)を持たない原核生物、つまりバクテリアの一員といえる「シアノバクテリア (藍藻)」や「原核緑藻」は、細胞の中に光合成色素を持ち、光合成を行って生きていますので、藻類と一員ともみなされています。


<陸上植物の祖先は藻類>
 私たちは「植物ってどんな色?」といわれると、「緑色」との答えが多いのではないでしょうか。私達が普段見かける草、木、シダやコケといった陸上植物の色は緑色であり、これらは全て基本的に同じ色と構造の葉緑体を持っています。陸上植物と藻類は、一体どのような関係にあるのでしょうか。
 じつは「藻類」の中で陸上植物とそっくりな葉緑体を持つグループがいます。それは「緑藻」です。緑藻の中のシャジクモ類という仲間は、生殖細胞の構造が陸上植物と似ていることや、近年の分子系統学的解析の結果からも、陸上植物と最も系統関係が近いとみられています。つまり、陸上植物は、藻類の中の緑藻シャジクモ類の中から進化した生物だろうと考えられます。
 陸上植物がいつ進化して陸上へあがったのかという年代については議論のある所ですが、化石の証拠からはだいたい5億年前後ではないかと思われます。一方藻類は約30億年前の地層にみつかる藍藻の化石が示すように、陸上植物よりもはるかに長い進化の時間を生きてきたグループだといえるでしょう。


<藻類の定義は?>
 「藻類」をつきつめて調べていくと、「藻類とはどんな生物か」と定義することがじつは難しいことがわかります。「藻類の多様性と系統」によると、「藻類とは、酸素を発生する光合成をおこなう生物の中からコケ植物、シダ植物、および種子植物を除いた残りのすべて」という定義がなされています。「陸上植物以外のすべて」というような定義のされ方からも、藻類がいかに異質な生物群からなることが想像できるかと思います。さらに困ったことに、渦鞭毛藻やミドリムシ藻の中には葉緑体を持たない種がいて、これらの"藻類"は光合成を行わずに餌を捕食することによって生きています。光合成をおこなわない「原生動物」と光合成をおこなう「藻類」、広げていうと「動物」と「植物」はもはや明瞭に区別することはできないと言わざるをえません。


<藻類を分類する>
 藻類は現在、世界では約3万5000〜4万種が、日本では約5500種が知られており、たくさんの種が記録されています。これらの種はすべてが関係性なくばらばらで存在している訳ではなく、何らかの特徴を共有する生物同士をまとめてグループ分けすることができます。たとえば、藻類全体は大きく11の門に分けられており、そのうちのひとつ紅色植物門 (紅藻 )は、

  ・葉緑体は2重の膜に囲まれている
  ・葉緑体は1重チラコイドをもつ
  ・光合成色素としてクロロフィルaとフィコビリンをもつ
  ・光合成による貯蔵物質として紅藻デンプンをつくる
  ・・・・


 などといった特徴でまとめられているグループです。
 紅色植物門に含まれる種はこれらの特徴を持つものからなり、それ以外の特徴でまとめられる藻類の他のグループとは区別することができます。さらに、紅藻の中も、もっと別の細かい特徴をもつグループにどんどんまとめていくことができます。このように「生物を分類」するためのルールと分類体系の基礎を作り上げたのは、18世紀の博物学者リンネです。リンネの時代から今に至るまで、多くの研究者によって世界のすべての藻類の種をみつけ、記録に残しておく作業がなされてきたわけです。これまで分類学により蓄積された記録によって、私たちはある生物の特徴を把握し、他の生物との違いを理解する上で大変役に立ち、さまざまな事柄に応用できるようになりました。
 藻類は体のつくりが比較的単純でグループ分けする上で比べる特徴にとぼしく、水の中という調べにくい環境にすむということもあって、まだまだこれまで調査されていない場所やグループが存在します。また、近年よく用いられている分子系統学的解析は、形からははっきりしなかった藻類同士の系統関係を統計学的手法で客観的に推測することができます。この手法をうまく利用して、これまでの分類学的な問題を検証しより正しいグループのまとまりや系統関係を構築していくことが必要です。


<藻類研究の可能性について>
 このように、さまざまな多様性を見せてくれる「藻類」にはまだまだわかっていないことが多く、生物の多様性や進化の研究対象として興味はつきません。葉緑体を持つ生物と持たない生物との関係は?藻類の各グループの中ではどんな多様性や系統関係がみられ、いろいろな種はどのようにして進化してきたのか?そういった研究の中で、これまで知られていなかった種がみつかることも少なくありません。


   私たちの研究グループでは「藻類」を研究対象として、形態観察、微細構造観察、培養による生活史の解明、交雑実験、成分分析、分子系統学的解析など様々な手法を用いて、「藻類」の多様性の正確な理解と進化の道筋の解明に貢献していくことを研究の目的としています。



 参考文献:藻類の多様性と系統. 1999年. 裳華房.