北海道大学大学院理学研究院 化学部門 液体化学研究室 景山義之

化学反応過程と自己組織化 Systems Chemistry

総説  Review Papers

「分子集合材料の自律性について」の、きほんの「き」

Free Access

Robust Dynamics of Synthetic Molecular Systems as A Consequence of Broken Symmetry

Yoshiyuki Kageyama
Symmetry, 2020, 12, 1688 (15-pages).

分子システムとしての散逸自己組織化を狙っている、私の研究の背景について説明した解説論文です。なぜ散逸自己組織化が必要なのか、どのような要素によって実現できるのか、具体的にはどんな研究で実現したのか、を説明しています。なお、散逸自己組織化は1970年代には確立された概念であるので、最初の二点については、旧来の説明を「分かり易い形で」表現しただけです。分かりやすさ重視のため、詳細説明を避けているところがあります(予想通り、査読過程でクレームがつきました)。最終節では、従来の学理を誤認した最近のファッション研究に対して、不足点があることを注意喚起をしています。

かつてハゲタカジャーナルと指摘された出版社ですが、招待執筆の本論文は、無料で掲載して頂きました。

「光駆動材料における自律性について」の、そもそも論

Free Access

Light-Powered Self-Sustainable Macroscopic Motion for the Active Locomotion of Materials

Yoshiyuki Kageyama
ChemPhotoChem, 2019, 3(6), 327–336.

顕著な非線形性を有する現象/時間遅れを含む現象を有する現象を組み合わせれば、自律的に継続駆動する材料を創出することができることを、極めてシンプルに著述した総説。数式やグラフは表計算ソフトで数値解析できるようなものだけ記載しています。式では簡単に著述できても、物質で表現することは、まだまだチャレンジングな課題。だからこそ、私達は化学的手法で自律駆動する物質の創出を常々目指しています。

原著論文  Original Research Results

超分子ダイナミクス・時空間自己組織化

Light‐driven flipping of azobenzene assemblies ― sparse crystal structures and responsive behavior to polarized light

Yoshiyuki Kageyama Tomonori Ikegami Shinnosuke Satonaga Kazuma Obara Hiroyasu Sato Sadamu Takeda
Chem. Eur. J. 2020
光で駆動するアゾベンゼン分子集合体のフリップ運動 ― 柔らかい結晶構造と、偏光に応答する挙動

 光に含まれている情報を読み取って、自律運動の形式を変える結晶を報告。「生命の本質」といわれる、時空間自己組織化現象の結果として実現した研究です。
 生物は「走性」という、外部からの情報を得て動く方向を決める性質を持っています(誤解されていることが多いのですが、エネルギーが与えられる方向・ポテンシャル勾配で、動く方向が決められた挙動は、走性ではありません)。実験上の都合で、末端が固定された結晶を対象に研究をしたので、この研究では「走る」ことは追求していません。しかし、この研究の結晶は、走性と同様、外部からの情報で、自身の動き方を決める、という挙動を示します。

北海道大学からのプレスリリース (日本語)
北海道大学からのプレスリリース (英語)
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詳説:自律運動性材料の、外部情報に応じた継続運動について
●何が重要なのか?
(1)人工の分子機械を組み合すことで、情報応答型の自律挙動を示した
(2)(対称性の破れや、観察される運動の特徴に関連して)結晶の構造を解き、その結晶構造と運動発現条件の関連を明らかにしたこと

 自律的に動くことができる動物が、情報に応じて自分たちの運動を変えることができる、ということを考えると、「自律的に運動できる材料は、外部からの情報に応じて自身の動きを変えることができる」というのは、当然のことです。しかし、生物と無生物とを同じように話すことはできません:無生物の物体は多くの場合、自律的に運動ができません。この研究の新しいところは、化学合成でつくった分子(分子機械)を用いて、上記の事柄を実験的に示したところであり、重要なところです。自律的に運動できる材料を作るということが極めて難しかったため、この論文は「人工の分子機械を組み合して情報応答型の自律挙動を示した」という点で世界初の研究となっています。
 この研究では、結晶の中に、自律運動を作り出す分子(モーター)と、情報を受信し変形をアレンジする分子(センサー)がそれぞれ存在することから、情報に応じて多様な立体運動を実現しています。人間に例えるならば、心臓と運動神経がそれぞれ存在することで、多様な運動ができる、というような感じです。もしも自律運動を作り出す分子しか存在しない場合(心臓しか存在しない場合)、情報応答は、速度変化(心拍変化)という形でしか現れなかったことでしょう。
 将来的には、複数の情報を受信し、それらの情報を足し合わせた動きをする、という計算機型の運動を発現できるようになると思います。特殊な実験装置を組む必要があることから、実現するにはもう少し時間がかかる見込みです。

 また、これらの研究の前提にある事柄ですが、エネルギー(本質的に方向性を持たないもの)から、運動(方向をもつもの)をひき起こすためには、対称性の破れが必要です。この論文では、結晶という異方性をもつ構造を利用しているのみならず、その単位構造にも特徴があることを明確にしました。プレスリリース中では、「結晶の中では,それぞれ異なる方向を向いた六個 のアゾベンゼン分子が一組を形成し,その組が整列していました。」と表記した点は、六個の分子が空間群P1という対称性のない配置で整列していることを意味しています。これは、とても柔らかい結晶で計測が難しいにもかかわらず、単結晶X線構造解析に成功したことで分かりました。さらには、結晶の柔らかい場所と固い場所、そこにある分子の向き、などを明らかにできたことで、どの分子がモーターとして働き、どの分子がセンサーとして働いているか、を示すことができました。このことが上述の「情報応答型」の挙動の実現につながっています。

超分子ダイナミクス・時空間自己組織化

Dissipative and Autonomous Square-Wave Self-Oscillation of a Macroscopic Hybrid Self-Assembly under Continuous Light Irradiation

Tomonori Ikegami, Yoshiyuki Kageyama, Kazuma Obara, and Sadamu Takeda,
Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55(29) 8239–8243.
定常光照射下で発現する巨視的複合分子集合体の散逸的かつ自律的な矩形波自励振動運動

「生命の本質」といわれる、時空間自己組織化現象を、化学物質で実現した研究。

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詳説:巨視的な自律運動の実現について:分子モーターと、力学的な仕事をするということ、の関係
●何が凄いのか? 何が重要なのか?:マイクロメートルスケールの大きな動きを続ける材料を作った点
 この研究が出版された数カ月後、「分子マシンの設計と合成」の研究に対して、ノーベル化学賞が与えられました。ナノメートルというとても小さい分子が、機械のように構造を変えるという点が、これらの研究のポイントです。特に「分子モーター」は、動き続けることができる機械として注目されました。一方で、これらの分子が、機械のように働くか、と問われると、簡単な話ではなくなります。そのことは、小人が巨人を動かせられるのか、ということをイメージすれば分かっていただけると思います。なお、「働く」とは中学校の理科で教わる通り「エネルギー変換をする」ということです。また、「一回きりの使い捨て」的なエネルギー変換(例:使い捨てカイロ)ではなく、エンジンやモーターが燃料を運動エネルギーに変えるような、継続的にエネルギー変換するものを意図しています。
 実際に働く分子マシンを作ろうと思うと、大きな分子マシンを作る、あるいは分子マシンを集めて大きくする、ということが考えられます。私たちは、後者の、分子マシンを集めて大きくする研究をしています。
 しかし、機械のように動く分子を単に集めただけでは、働かなくなってしまう、ということが知られています(熱力学第二法則)。これに対して、この研究では、分子を集めて束ねているにもかかわらず、動き続ける現象を実現しました。
●何が実現のための鍵だったの?
 「光異性化反応」と、それに引き続いて起こる「相転移」とを組み合わせることができた点です。
●似た研究との違いは?
(1) 「刺激応答性材料」といわれる種々の材料があります。これらは、環境変化に応じて材料の形状が変わります(そういう意味で「刺激応答性材料」という命名は学術的には微妙です)。ゆえに、動かし続けるためには、環境変化を繰り返し行う必要があります。これに対し、私たちの研究は、定常的な環境で動き続けることができます。
(2) 生体内にある分子を利用するならば、動き続けるものを作ることができます。有機合成でつくった小さな分子で動き続ける現象を実現したことで、産業的な魅力が高まります。

超分子ダイナミクス

Mechanism of Macroscopic Motion of Oleate Helical Assemblies: Cooperative Deprotonation of Carboxyl Groups, Triggered by Photoisomerization of Azobenzene Derivatives

Yoshiyuki Kageyama, Tomonori Ikegami, Yuta Kurokome, and Sadamu Takeda
Chem. Eur. J. 2016, 22, 8669–8675.
らせん状分子集合体の巨視的運動のメカニズム:
アゾベンゼン光異性化によって誘発される協同的脱プロトン化

 光学顕微鏡を用いて肉眼で見ることのできるらせん状分子集合体の回転運動(2013年に報告)について、その機構を調べた結果を報告。「光異性化分子が異性化すると、その後、分子集合体を構成する分子の脱プロトン化が起こる」という協同効果によって、分子集合体の運動が起きている、という機構を提案している。
 一つの分子における光誘起型酸解離現象はよく知られた現象である。一方、本研究のような複合分子系における協同的光誘起型酸解離現象は(生体分子の研究例を除いて)あまり知られていない。

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自己集積

Structure and Growth Behavior of Centimeter-Sized Helical Oleate Assemblies Formed with Assistance of Medium-Length Carboxylic Acids

Yoshiyuki Kageyama, Tomonori Ikegami, Natsuko Hiramatsu, Sadamu Takeda, and Tadashi Sugawara
Soft Matter 2015, 11, 3550–3558.

この研究では、オレイン酸が自己集積しらせん状集合体を形成するときの、少量添加した小さな両親媒性分子の役割について検討した。小さな両親媒性分子が、分子集合体の成長を触媒していることが判明した。「結晶成長」の研究は長い歴史を有している一方で、この論文のような「柔らかい分子集合体の成長」についての科学は、まだ始まって間もない。

雑誌の背表紙を飾りました。
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共同研究:自己集積

Formation of Monodisperse Hierarchical Lipid Particles Utilizing Microfluidic Droplets in a Nonequilibrium State

Masahiro Mizuno, Taro Toyota, Miki Konishi, Yoshiyuki Kageyama, Masumi Yamada, and Minoru Seki, Langmuir 2015, 31, 2334–2341.

共同研究:水分子のダイナミクス

Intrinsic Surface-Drying Properties of Bio-adhesive Proteins

Yasar Akdogan, Wei Wei, Kuo-Ying Huang, Yoshiyuki Kageyama, Eric W. Danner, Dusty R. Miller, Nadine R. Martinez Rodriguez, J. Herbert Waite, and Songi Han, Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 11253–11256.

 UCSBへの短期留学中の共同研究成果。動的核分極NMRと、ESR線形解析から、イガイ(ムール貝)の「接着」に際しての水和挙動について検討した論文。

Nature Materials Reserch Highlightsの囲み記事として取り上げられました。(Alison Stoddart, Nature Materials, 2014, 13, 915.)

超分子ダイナミクス

Macroscopic Motion of Supramolecular Assemblies Actuated by Photoisomerization of Azobenzene Derivatives

Yoshiyuki Kageyama, Naruho Tanigake, Yuta Kurokome, Sachiko Iwaki, Sadamu Takeda, Kentaro Suzuki, and Tadashi Sugawara,
Chem. Commun., 2013, 49, 9386–9388.

 オレイン酸とアゾベンゼン誘導体を混合した分子集合体の、光誘起型の運動についての速報。続報の論文にて、メカニズムを報告している。

雑誌の背表紙を飾りました。
ChemCommBlogにてHot Articleに採択。ChemSpiderBlogにもピックアップされる。
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後続の報文へ

人工細胞モデル・ベシクル内PCR

Compartment Size Dependence of Performance of Polymerase Chain Reaction inside Giant Vesicle

TOC-figure from RSC
Koh-ichiroh Shohda, Mieko Tamura, Yoshiyuki Kageyama, Kentaro Suzuki, Akira Suyama, and Tadashi Sugawara Soft Matter 2011, 7, 3750–3753.

リン脂質ジャイアントベシクル内で、DNAの複製反応(ポリメラーゼ・チェイン反応:PCR反応)を行った研究。ジャイアントベシクルの容量はとても小さいため、PCR反応の効率に不均一性が生じる。そのことなども検討している。
この研究より先に、P. L. Luisiらによるリン脂質スモールベシクル(容量はさらに小さい)内でのPCR反応が報告されている。また、本研究に引き続き、自己生産型人工分子ベシクル内でのPCR反応などの研究が展開された。

人工細胞モデル・自触媒ベシクル自己生産

Autocatalytic membrane-amplification on a pre-existing vesicular surface

TOC figure from RSC
Hiroshi Takahashi, Yoshiyuki Kageyama, Kensuke Kurihara, Katsuto Takakura, Shigeru Murata, and Tadashi Sugawara, Chem. Commun. 2010, 46, 8791–8793.

自己生産するベシクルに、自触媒反応性を持たせた研究。
アニオン性ベシクル界面近傍の、局所的な酸性によって、人工膜分子前駆体を加水分解し、アニオン性の膜分子を生成する反応を行わせることで、自触媒反応で増殖するベシクル生産系を構築した。なお、オレイン酸・無水オレイン酸系で、P.L.Luisiらのグループも自触媒反応性を確認している。この研究の後、アメリカのグループでも、化学的な分子設計で、自触媒反応で増殖するベシクル自己生産系を創出している。

有機光化学

Design and Synthesis of Photocleavable Biotinylated-Dopamine with Polyethyleneoxy Photocleavable Linkers

Kengo Hanaya, Yoshiyuki Kageyama, Masanori Kitamura, and Shin Aoki, Heterocycles 2010, 82, 1601–1615.

有機光化学

Photochemical Cleavage Reactions of 8-Quinolinyl Sulfonates in Aqueous Solution

Yoshiyuki Kageyama, Ryousuke Ohshima, Kazusa Sakurama, Yoshihisa Fujiwara, Yoshifumi Tanimoto, Yasuyuki Yamada,and Shin Aoki Chem. Pharm. Bull. 2009, 57, 1257–1266.

有機光化学

Photolysis of the Sulfonamide Bond of Metal Complexes of N-Dansyl-1,4,7,10-Tetraazacyclododecane in Aqueous Solution: A Mechanistic Study and Application to the Photorepair of cis,syn-Cyclobutane Thymine Photodimer

Shin Aoki, Yumiko Tomiyama, Yoshiyuki Kageyama, Yasuyuki Yamada, Motoo Shiro and Eiichi Kimura Chem. Asian J. 2009, 4, 561–573 (2009).

有機光化学

Design and synthesis of a photocleavable biotin-linker for the photoisolation of ligand-receptor complexes based on the photolysis of 8-quinolinyl sulfonates in aqueous solution

Shin Aoki, Nanako Matsuo, Kengo Hanaya, Yasuyuki Yamada and Yoshiyuki Kageyama, Bioorg. Med. Chem. 2009, 17, 3405–3413.

人工細胞:ベシクル自己生産系の挙動

Population Study of Sizes and Components of Self-Reproducing Giant Multilamellar Vesicles

Taro Toyota, Katsuto Takakura, Yoshiyuki Kageyama, Kensuke Kurihara, Naoto Maru, Kiyoshi Ohnuma, Kunihiko Kaneko, Tadashi Sugawara, Langmuir 2008, 24, 3037–3044.

分子集合体の自発的不均化

Study on structural changes in supramolecular assemblies composed of amphiphilic nicotinamide and its dihydronicotinamide derivative by flow cytometry

Yoshiyuki Kageyama, Taro Toyota, Shigeru Murata, Tadashi Sugawara, Soft Matter 2007, 3, 699–702.
雑誌の表紙を飾りました。

生体模倣有機反応

Oxidative Formation of Thiolesters in a Model System of the Pyruvate Dehydrogenase Complex

Yoshiyuki Kageyama and Shigeru Murata, J. Org. Chem. 2005, 70, 3140–3147.

書籍

Photosynergetic Responses in Molecules and Molecular Aggregates

書籍出版

"Interplay of Photoisomerization and Phase Transition Events Provide a Working Supramolecular Motor" 2020年に出版

Molecular Technology (vol.1) Energy Innovation

書籍出版

"Material Transfer and Spontaneous Motion in Mesoscopic Scale with Molecular Technology" 産総研の武仲先生・京大の東口先生と共同執筆。


Preprints

[Sep. 08, 2020] Robust Dynamics of Synthetic Molecular Systems as A Consequence of Broken Symmetry


解説

化学と教育 2019年2月号 vol.67 No.2 pp.74-75.

研究紹介

光を浴びて舞い踊る結晶
JSTAGEから無料でダウンロードできます。

高分子 2018年6月号 vol.67 No.6 pp.328-329.

研究紹介

自律駆動するアゾベンゼン分子集合体

配位アシンメトリー ニュースレター

研究紹介

有機金属触媒の非対称運動で化学エネルギー誘起型の自律的マクロ運動を実現する

2018.03.23

アウトリーチ

Tackling Global Issues: Vol.1, Soft Matter: Material of the Future

高次複合光応答ニュースレター

研究紹介

可逆な光異性化反応がマクロ構造変化で同期する自励振動現象の物理化学解析

有機結晶化学部会ニュースレター 2017, No.40, 67–70.

研究物語

自己秩序を形成して動き続ける生命のような分子集合体の創出

化学と工業 2016, 69(9), 736–737.

研究紹介

時空間的非対称性が鍵になる次世代超分子デバイス
図3のキャプションにある文献番号を訂正します。誤:6→正:8

コロイドおよび界面化学部会ニュースレター 2016, 41(3), 13–15.

研究紹介

分子機械が誘起する分子集合体の巨視的ダイナミクス

生体機能関連化学部会ニュースレター 2015, 30(3), 6–9.

研究紹介

巨視的な自律的機械運動を発現するアゾベンゼン誘導体・オレイン酸混合分子集合体

化学と工業 2015, 68, 1029.

ディビジョントピックス

分子自己集積特性を活かした超分子モーター

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