業績一覧

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現在の研究


〜植物の環境応答とRNA分解制御の研究〜

 植物は様々な環境ストレスの下で生育しており,移動という手段を持たない分,それらに迅速に対処しなければなりません。 これには様々な遺伝子の発現調節が伴うことが知られていますが,これまでの研究のほとんどは,転写あるいは翻訳段階の制御に関するものでした。 しかしながら,リボザイムやリボスイッチの発見,さらに近年ではタンパク質をコードしない小分子RNAの研究が急速に進展し,遺伝子発現制御におけるRNAの重要性が見直されてきています。 特にmRNAの分解による遺伝子発現制御は,迅速な応答を必要とする場合に有効であると考えられます。 我々は植物における環境ストレス応答に注目し,mRNAの分解による制御がどのように関与しているのかを明らかにしたいと考えています。 当面の研究目標として,マイクロアレイを用いた網羅的解析により,ストレスに応答してmRNA安定性のレベルで制御されている遺伝子群を明らかにし,mRNA安定性制御の分子メカニズムの解明を目指しています。 研究対象としてはモデル植物であるシロイヌナズナを使い,分子遺伝学的および生理学的手法を用いた研究を進めています。 この研究によって植物のストレス応答の研究に新たな局面が拓かれるものと考えます。 特に,様々なストレスに単独あるいは共通のmRNA安定性における応答機構の存在を明らかにすることによって,ストレスに応答した新たなクロスネットワーク制御が明らかになると期待しています(図1)。 また,mRNAの安定性による新たな制御機構を解明することは,ストレスに適応できる植物を作出するための新たなアプローチの開拓にもつながるでしょう。

参考論文:Chiba, Y., Mineta, K., Hirai, Y. M., Suzuki, Y., Kanaya, S., Takahashi, H., Onouchi, H., Yamaguchi, J., and Naito, S. Changes in mRNA stability associated with cold stress in Arabidopsis cells. Plant Cell Physiol., 54: 180-194 (2013) [link]



〜植物のもつポリA除去酵素の解析〜

 真核生物のmRNA分解経路に関する研究は酵母で最も進んでいます。 mRNA分解の最初の段階は3’末端からポリAを除去する過程です。 その後,ポリAを失ったmRNAはキャップの除去を経て,5’側から分解されていくか,あるいは3’側からの分解が進行します(図2)。 シロイヌナズナにおいても、mRNA分解経路に関わる酵素遺伝子が単離解析されています。 本研究室ではmRNA分解の律速段階と考えられるポリA除去に注目した研究を行います。 酵母における主要なポリA除去酵素であるCCR4のシロイヌナズナのホモログAtCCR4は7個の遺伝子から成るファミリーを形成しています。 このうち酵母のCCR4と際立って高い相同性を示したAtCCR4aとAtCCR4bの2つの酵素について生化学的および遺伝学的解析によりその機能を明らかにしていきたいと考えています。

参考論文:Suzuki, Y., Arae, T., Green, P. J., Yamaguchi, J., Chiba, Y.* AtCCR4a and AtCCR4b are involved in determining the poly(A) length of Granule-bound starch synthase 1 transcript and modulating sucrose and starch metabolism in Arabidopsis thaliana. Plant Cell. Physiol., 56: 863-874 (2015) [link]








これまでの研究


〜オオムギにおけるケイ酸吸収機構の解析〜

2006-2008:岡山大学
 ケイ素は多くの植物において病虫害や乾燥ストレス,重金属ストレス耐性に関わる働きが示されており,その重要性が見直されている。本研究ではオオムギにおけるケイ酸の吸収機構の解明に向けた植物生理学的および分子生物学的解析を進めた。根におけるケイ酸輸送のキネティクスから,オオムギがイネと同様に能動的な吸収機構を持つことを示した。そこで,オオムギのケイ酸トランスポーターの同定を目指して,イネの内向型ケイ酸トランスポーターLsi1および外向型トランスポーターLsi2のホモログHvLsi1とHvLsi2を単離して機能解析を行った。
これらの結果から,HvLsi1が植物体内でケイ酸の内向型トランスポーターとして働いていること,およびHvLsi2は外向型トランスポーターでありケイ酸の吸収量を制御するうえで重要な役割を持つ可能性を示した(図3)。

参考論文:Yamaji, N., Chiba, Y., Ueno, N. M., and Ma, J.F.: Functional characterization of a silicon transporter gene implicated in Si distribution in barley. Plant Physiol., 160: 1491-1497 (2012) [link]

Chiba, Y. †, Mitani, N.†, Yamaji, N. and Ma, J. F. (†co-first authors): Identification of silicon efflux transporters in maize and barley reveals their different silicon uptake system from rice. Plant Cell, 21: 2133-2142(2009) [link]

Chiba, Y., Mitani, N.; Yamaji, N.; Ma, J. F: HvLsi1 is a silicon influx transporter in barley. Plant J., 57: 810-818 (2008) [link]

〜植物におけるmRNA安定性に関わるポリA除去の分子機構〜

2001-2006:Delaware Biotech. Inst.
 高等生物における遺伝子発現制御機構としてmRNA分解制御機構が近年注目されている。mRNA分解機構においてポリA除去は最初の段階であり,律速段階と考えられている。それゆえに,ポリA除去の分子機構を知ることはmRNAの分解制御を理解する上で重要となる。そこで哺乳類のポリA除去酵素であるPARNのシロイヌナズナのホモログ(AtPARN)の機能を逆遺伝学的手法で解析し,以下のことを示した。
これらの結果から,AtPARNが胚形成の段階で重要な機能を持つポリA除去酵素であることを明らかにした。



参考論文:Chiba, Y., Johnson, M.A., Lidder, P., Vogel, J.T., Van Erp, H., Green, P.J: AtPARN is an essential poly(A) ribonuclease in Arabidopsis. Gene, 328: 95-102. (2004) [link]


〜シスタチオニンγシンターゼ(CGS)遺伝子におけるmRNA安定性の自己制御〜

1995-2001:北海道大学
 CGSは植物におけるメチオニン生合成の鍵段階を触媒する。遊離メチオニンを過剰に蓄積するシロイヌナズナ突然変異株(mto1)を用いた解析により,CGS遺伝子の発現がmRNAの安定性の段階でフィードバック制御されていることを明らかにした(図4)。この研究は代謝酵素遺伝子の発現がmRNAの安定性の段階で自己制御されるという,世界初の発見となった。しかも,MTO1 領域と名付けたCGS自身のアミノ酸配列が関与しているというユニークな制御機構であり,フィードバック制御の際に起こるCGS分解の中間産物と思われる5′末端の欠けたmRNA断片が検出された。さらに,in vitro系を用いた解析から,実際のエフェクターがメチオニンではなくその代謝産物のSAM であることを明らかにした。



参考論文:Chiba, Y., Sakurai, R., Yoshino, M., Ominato, K., Ishikawa, M., Onouchi, H., Naito, S: S-Adenosyl-L-methionine is an effector in the posttranscriptional autoregulation of the cystathionine γ-synthase gene in Arabidopsis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100: 10225-10230 (2003) [link]

21. Chiba, Y., Ishikawa, M., Kijima, F., Tyson, R.H., Kim, J., Yamamoto, A., Nambara, E., Leustek, T., Wallsgrove, R.M. and Naito, S: Evidence for autoregulation of cystathionine γ-synthase mRNA stability in Arabidopsis. Science, 286: 1371-1374 (1999) [link]