論文解説





2019 年

Satoh Y., Takei N., Kawamura S., Takahashi N., Kotani T., and Kimura A.P.

A novel testis-specific long noncoding RNA, Tesra, activates the Prss42/Tessp-2 gene during mouse spermatogenesis

Biology of Reproduction 100: 833-848

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マウス精巣の減数分裂では一次精母細胞において多くの遺伝子が転写活 性化して機能することが重要ですが、その転写活性化メカニズムの詳細は理解が遅れてい ます。我々は今回、精子形成に重要な遺伝子がクラスターを作って存在するマウス9番染色体のPrss/Tessp遺 伝子座において(Yoneda et al., 2013)、新規のlong noncoding RNA(lncRNA)がその転写活性化に寄与することを発見しました。Prss/Tessp遺 伝子座から転写される全長4435塩基のこの新規のlncRNAはTesraと 名づけられ、精原細胞、一次精母細胞、 精細胞、ライディッヒ細胞の核と細胞質および精巣エクソソームにも局在していまし た(Figs. 1, 2, 3, 4)。私たちは、Tesraが 一次精母細胞の核に特に多く存在することと(Fig. 3G)、Tesraの発現が一次精母細胞が増えるタイミングで増加 することから(Fig. 2D)、Prss/Tessp遺伝子の転写活性化に寄与する可能性 を検証しました。まず、ChIRP解析と呼ばれる手法を用いて、TesraPrss/Tessp遺伝子座のクロマチン領域に結合し ているかどうか調べたところ、生殖細胞中でTesraPrss42/Tessp-2遺伝子のプロ モーター領域に結合していることがわかりました(Fig. 5)。その上、内在でPrss42/Tessp-2を発現する培養 細胞にTesraを過剰発現させるとPrss42/Tessp-2の発現量が有意に増加 し、レポーター解析でもTesraPrss42/Tessp-2プロモーター活性を上昇させました(Fig. 6)。したがって、TesraPrss42/Tessp-2遺伝子の新たな転写活性化因子であると考えられ ます。私たちは以前の研究でPrss42/Tessp-2遺伝子の エンハンサーと考えられる配列を同定していたため(Yoneda, Satoh et al., 2016)、最後にこのエンハンサーとTesraが 協働的に機能できるかを検証しました。Tet-onシステムに よってTesraの転写を誘導できる実験系でレポーター解析を行っ たところ、lncRNA-HSVIII下流のエンハンサーがTesraと協働的にPrss42/Tessp-2遺伝子を転写活性化することが わかりました(Fig. 7)。しかしそのエンハンサーとTesraは互いに依存的ではなく 独立に機能できるものであり、これまで報告されている多くのlncRNAとエンハンサーの関係性とは異なるメ カニズムであることが示唆されました。以上の結果から、精巣特異的な新規のlncRNAであるTesraは、lncRNA-HSVIIII下流のエンハンサーと 協働してPrss42/Tessp-2遺伝子を転写活性化する因子 であると結論しました。Prss42/Tessp-2遺伝子は減数 分裂が二次精母細胞から精細胞 へと進行するのに必須であると考えられているため(Yoneda et al., 2013; Yoneda and Kimura 2013)、Tesraは減数分裂 の進行を調節する新規の因子であることが考えられます。また、精巣はあらゆる器官の中で も特に多数のlncRNAを発現することが知られていますが、本研究によってその生理的重要性の一端が明らかになったと言えます。









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