論文解説





2017 年

Kurihara M., Otsuka K., Matsubara S., Shiraishi A., Satake H., and Kimura A.P.

A testis-specific long non-coding RNA, lncRNA-Tcam1, regulates immune-related genes in mouse male germ cells
[OPEN ACCESS]


Frontiers in Endocrinology 8: 299

PubMed  Frontiers Website  HUSCAP

精巣の減数分裂過程では特にたくさんのlong noncoding RNA(lncRNA)が転写されることが報告されていますが、その機能まで明らかになっている例はほんの数例にすぎません。我々はマウスTcam1遺伝子座の解析途中で精巣生殖細胞特異的なlncRNA-Tcam1を発見しましたが(Kurihara et al., 2014)、今回はその機能解明に向けた研究を行いました。我々は前回の研究で、マウス精母細胞由来のGC-2spd(ts)細 胞株 にlncRNA-Tcam1配列を含むゲノム領域を安定的に導入し た細胞クローンを作製しており、その中からこのlncRNAを63倍異なるレベルで発現する2つの細胞株を選び出して、RNA-sequencing解析 に かけました(Fig. 1)。その結果、lncRNA-Tcam1の 転写による影響を受けた可能性のある55遺伝子が判明しました。そこで、これらのうちどの遺伝子が本当にlncRNA-Tcam1の調節を受けるのか明らかにするために、発生過程の マウス精巣を用いて定量的RT-PCR解析を行いました。その結果、21遺伝子がlncRNA-Tcam1と 相関した発現を示しました(Fig. 2)。さらに、最初に用いたのとは異なる2つのGC-2spd(ts)クローンを選び出してこれらの遺伝子の発現を調べたところ、11遺伝子がlncRNA-Tcam1制御下にある可能性を残しました(Fig. 3)。最後に、GC-2spd(ts)細胞においてlncRNA-Tcam1転 写を誘導するためのTet-Off系を樹立して調べたところ、lncRNA -Tcam1の転写誘導によって6つの遺伝子が有意に発現量を上昇させることがわかりました(Fig. 4)。これら6つの遺伝子はTrim30aIfit3TgTp2Ifi47Oas1gGbp3であり、驚くべきことにこれらはすべて免疫応答に関わる遺伝子だった のです。つまり、lncRNA-Tcam1はこれらの遺伝子の活性 化を通じて精巣の免疫防御を調節する因子であることが示唆されました。精巣は immune priviledgedとよばれる状態になっていて、自然免疫が主な防御機構となっていますので、このlncRNAは精巣で自然免疫応答をコントロールし ていることが考えられます。精巣の免疫防御についてはわかっていないことが多く、今回の成果はその部分に新たな知見を加えるものとなりました。









木 村グループのトップページ