論文解説





2019年

Maruyama Y. and Kimura A.P.

A molecular mechanism of mouse placental spongiotrophoblast differentiation regulated by prolyl oligopeptidase

Zygote 27: 49-53

PubMed HUSCAP

プロリルオリゴペプチダーゼ(POP, prolyl oligopeptidase; gene symbol, Prep)は多くの組織で発現する多機能性のセリンプロテアーゼです。我々は、マウス胎盤の幹細胞であるTS細胞(Trophoblast Stem cell)を用いた研究によって、POPがマウス胎盤を構成するSpT(Spongiotrophoblast)とTGC (Trophoblast Giant Cell)という2種類の細胞の分化に機能することを見出しました(Maruyama et al., 2017)。今回はこのうちSpTへの分化について、より詳細な分子メカニズムを調査しました。まず、これまでにSpT分化に不 可欠であることが示されているAscl2ArntEgfrの3つの遺伝子がPOP特異的阻害剤SUAM-14746によって影 響を受けるか調べたところ、TS細胞の分化過程でAscl2のみが 阻害剤によって発現低下することがわかりました(Fig. 1)。そこでAscl2の 制御を受けるFlt1の発現も調べたところ、やはりSUAM- 14746処理したTS細胞で発現低下していました(Fig. 2)。つまり、POPはAscl2の発現を制御することによってSpTの分化を調節することが明らか になりました。最後に、POPがPI3K-Aktシグナル系を介してAscl2の 発現を調節するのではないかと予想して、TS細胞分化系にPI3Kの阻害剤を添加してみましたが、Ascl2の発現は変わりませんでした(Fig. 3)。したがって、POPはPI3K-Akt系以外のシグナル系を介してAscl2の 発現を調節し、それによりSpT分化を制御するものと考えられます。









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