論文解説





2017 年

Maruyama Y., Matsubara S., and Kimura A.P.

Mouse prolyl oligopeptidase plays a role in trophoblast stem cell differentiation into trophoblast giant cell and spongiotrophoblast

Placenta 53: 8-15

PubMed  HUSCAP

プロリルオリゴペプチダーゼ(POP, prolyl oligopeptidase; gene symbol, Prep)は多様な生物や組織で発現する多機能性のセリンプロテアーゼです。POPはマウスの組織において胎盤で高い発現を示すことが知られているにも関 わらず(Matsubara et al., 2010; Matsubara et al., 2011)、胎盤における機能はこれまで全く報告されていませんでした。今回、胎盤の幹細胞であるTS細胞 (Trophoblast Stem cell)の分化誘導系とPOP特異的阻害剤を用いた解析により、POPがSpT(Spongiotrophoblast)とTGC (Trophoblast Giant Cell)と呼ばれる2種類の胎盤構成細胞の分化に機能するという新規生理機能を明らかにしました。まず、TS細胞の分化がうまくいっていることをマー カー遺伝子の発現によって確認した後(Fig. 1)、TS細胞分化におけるPOP mRNAの発現やタンパク質量、酵素活性を測定したところ、いずれも分化過程で十分存在していることがわかりました(Fig. 2)。そこで、POP特異的阻害剤であるSUAM-14746をTS細胞分化誘導時に添加し、細胞の形態観察と各細胞のマーカー遺伝子の発現からTS細胞 分化における影響を解析しました。その結果、顕微鏡観察下において、阻害剤を添加することにより大きな核と細胞質を持つTGC様の細胞の数と割合がコント ロールと比較して減少し、SpTとTGCのマーカー遺伝子の発現がPOP特異的阻害剤の濃度依存的に低下しました(Fig. 3)。この時、POP阻害剤が適切に酵素活性を阻害していることと、POP阻害剤がTS細胞の生存に影響を及ぼさないことは確認できました(Fig. 4, Fig. 5)。最後に、別のPOP特異的阻害剤であるKYP-2047を用いて同様の阻害剤実験を行いましたが、驚くべきことにSpTとTGCの分化阻害は起こり ませんでした(Fig. 6)。これは、2つの阻害剤のPOP結合時における特徴の違いによるものであると考えられます。以上の結果より、SUAM-14746はTS細胞の分化に おいてSpTとTGCの分化を阻害すること、つまりPOPはSpTとTGCの分化に機能することが明らかになりました。









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