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安全情報・・・@操作について

安全に実験を行うための操作
化学実験では危険性が全くない操作は無いと言っていいです。これは、実験に使用する器具にも薬品にも事故につながる因子があるからです。たとえば、軽傷・重傷を問わず実験室で怪我をした原因としてよく耳にするのが、ガラスによる切り傷です。切り傷と聞けば対したことが無いと思うかもしれませんが、傷の程度によっては病院へ行って治療を受ける場合もあります。
実験中の事故防止を進めるためには、実験の前に予想される危険を十分に把握し安全対策をとっておくことが重要です。この考え方は、危険性の事前評価またはリスクアセスメントといいます。ここでは以下のことについて説明します(化学実験の安全指針)。

T 実験の目的を把握しているか
U 化学物質についての知識は十分か
V 反応についての知識は十分か
W 実験装置は適切か
X 実験操作手順を理解しているか
Y 実験場所は適切か
Z 緊急時のことを考えているか
[ 打ち合わせは十分か
\ 回収や廃棄の方法を考えているか

この9項目のうち学生実験に限っていうならば、W・Y・Z・\については指導する側で十分に検討してあることです。ですので、学生実験を行う際は指導者の指示に絶対に従ってください。もし迷うことがあれば自分の判断で行わずに、指導者に質問してください。

T 実験の目的を把握しているか
学生実験において、実験の目的とは何かということを考えてみます。もちろん、各テーマにおいて達成すべき目標はありますが、学生実験全体を通していうならば「研究実験を行うために基礎的な化学実験の技術を身につけること」といえます。
事故防止の観点から実験目的の把握ということについて考えると、これを把握しているのとしていないのでは大きく違います。化学実験の事故では、実験が失敗したことから事故につながることも多々あります。ですから、漫然とテキスト通りに実験を行うのではなく、何を目的として実験を行い、目的達成のためにどのような操作があり、どのような薬品を使用するのかということを実験を始める前にしっかりと考えなくてはなりません。

U 化学物質についての知識は十分か
実験で取り扱う化学物質の知識とは、試薬の当量関係を事前に把握しておくということではありません。これは、発火・爆発の危険性や人体に対する有害性などについての知識は十分であるかということです。学生実験・研究実験で使用する化学物質は、試薬会社から購入します。購入した試薬の多くには、MSDS(Material Safety Data Sheet)があります。これは化学物質の販売元が試薬の危険性や有害性・応急処置などについてまとめているものです。実験を始める前に目を通しておくとよいでしょう。

V 反応についての知識は十分か
化学では化学物質を組み合わせる操作を行うことで、新しい機能をもった物質や自然界からでは少量しか手に入らないような物質の合成や機能について評価を行います。
化学反応を行う場合、反応に必要な時間や温度はもちろんのこと、反応の速さ・発熱の程度・副反応・化学平衡について事前に調べておくことが大切です。

W 実験装置は適切か
化学実験ではガラス器具を用いて反応装置を組むことが多いです。これは、ガラスが薬品に対して比較的強く透明なので容器の中が観察しやすいためです。しかし、ガラスは物理的には壊れやすいものです。実験装置は実験の目的を達成するために適切なものでなくてはなりません。「適切なもの」とは、装置内の化学物質が漏れだしてこないものであることは当然ですが、装置自体が反応に耐えられるものかどうかということも重要です。たとえば、反応中に高圧になることが考えられるのであれば耐圧ガラス性の器具を用いたりすることなどです。細かい傷などにも注意しましょう。また、装置を組んだ場合には適切な組み方がなされているかどうかを確認することも必要です。
学生実験において言うならば、実験装置はテキスト通りに正しく組めば適切になるようになっています。また、学生実験に使用している器具は、それぞれの実験台に配布してあります。これは「実験器具はその管理も含めて学生に貸し出している」と理解すればよいと思います。ですから、実験開始前には自分のガラス器具に不具合が無いか確かめましょう。もし、ヒビが入っていたり、割れているガラス器具がある場合には自分から申し出て交換してもらいましょう。こちらから指摘して交換するものとして多いのは、ピペットの先端が欠けている・ナスフラスコにヒビが入っているといったものが多いです(事例_装置1)。


事例_装置1 ナスフラスコのヒビ
攪拌子を入れるときにフラスコの口から落とし入れたり、温度計を乱暴に入れたりするとこのようなヒビが入ります。最悪、フラスコの底が割れて内容物がフラスコの外にこぼれることがあります。

事故例1(実験室の笑える?笑えない!事故実例集 より)
2Lのフラスコの口にヒビが入っているのに気づかずに使用し、フラスコの口を持ったときに握りつぶした。この後病院へ行き7針縫った。
ガラスは、多くの薬品に強いことや透明であるため中を観察できるなど、ほかの材料では得られない特性があります。しかし、機械的強度は弱くヒビが入っているとそこから割れる(砕ける)ことがよくあります。ガラス管などを切るときにヤスリで傷を入れるのは、ガラスが曲げやゆがみに弱く、傷を入れるとその傷を入れた部分がさらに弱くなるからという説明を聞いたことがあります。器具は使用する前に必ず傷がないか確かめましょう。

事故例2
分液漏斗に試料溶液を入れているときに、下のコックから液が漏れてきました。原因はスリに糸くずが入っていたためです。
これは学生実験であった事例です。分液漏斗のコックが無くならないようにコックと本体を糸で結んであります。この糸からでた糸くずをコックをはめる際に巻き込んでしまったようです。せっかく作成した試料を無駄にしたいためにも、実験装置が問題なく組まれているか確認をしましょう。また、コックが

事故例3(実験室の笑える?笑えない!事故実例集 より)
パスツールピペットの先端が指にささり、しかも折れてしまったため取り出せなくなった。
事故例としてパスツールピペットが指に刺さるという事例はよく聞きます。パスツールピペットは先端が細くなっているので折れやすく、刺さった根本から折れていると病院へ行って抜いてもらわないとならない事もあります。
北大の学生実験では、パスツールピペットは細い方を下にして試験管にいれ、試験管立てに立てて保管するようにしています。

事故例4
TLC用キャピラリー(非常に細いガラス管)が実験台に放り出してあったため、回収しようと思い指で拾い上げました。このとき、指に刺さりました。幸い、指から外に出ている部分が長めだったため、自分で抜きました。ガラス片も指には入っていないようだったので、消毒だけしました。
今年度、私が実際に体験したことです。学生実験では、キャピラリーは必ず小さい試験管にいれてゴム栓をして保管することとしていますが、出しっぱなしになっていました。これを回収し戻そうと思ったのですが、取り上げ方が悪かったようです。ガラスの取り扱いには十分に注意しましょう。

事故例5(実験室の笑える?笑えない!事故実例集 より)
デシケーターの蓋が開かなくなり、本体と蓋を手で交差するように押し開けたところ、勢いがつきすぎて本体が実験台から床に落ちて割れた。中の試料も床に飛散した。
デシケーターの蓋が開かなくなることはあります。このとき、正しい開け方としては以下のようなものが紹介されています(事例_事故例5)。デシケーターの蓋は本体からずらしておくようにというのは、開かなくなったときのことも考えてということになります。学生実験中に蓋が開かなくなったと私のところに持ってきた学生がいましたが、蓋と本体がぴったり同じ位置になっていました。このときは壁と本体の間に木片を挟んで蓋を押して開けました。


事例_事故例5 デシケーターの開け方(実験室の笑える?笑えない!事故実例集 より)


X 実験操作手順を理解しているか
実験操作はあらかじめ決められた手順で行わなければなりません。操作の手順を入れ替えると、所定の目的を達成できないことや、危険であることがあります。このため、実験操作を行う前になぜこの操作を行いどのような結果になるのかを把握しておく必要があります。

Y 実験場所は適切か
装置や操作に十分に配慮したとしても、発火や爆発の危険性があったり有毒なガスが発生する場合があります。このため、発火や爆発の危険性があるときには対爆性のある場所で、有毒なガスが発生する場合にはドラフト内で操作をする必要があります。
実験を行う場所とは、上記のような「場所」のみを指すものではありません。たとえば、実験を行っている実験台は整理整頓されているかということも大切です。また実験はきれいな雰囲気で行わなければよい成果は得られません。

Z 緊急時のことを考えているか
万が一事故が起こった場合に備えて、実験室には救急セット・緊急用シャワー・洗眼器・消火器などを用意しておく必要があります。これらの備えが必要になった場合には、すぐに使用できる体制作りも大切です。また、緊急用シャワーや消火器などは定期的に点検することが必要です。
学生実験に限って言うならば、事故が起こったならばまず指導しているスタッフに連絡するべきです。これは事故を起こした本人やその周りの学生は混乱していることが多いためです。

[ 打ち合わせは十分か
一人で行う実験であれば自分が実験について把握していればよいのですが、複数人で一つの実験を行う場合には実験に参加する人全員が目的・操作・役割分担についてしっかりと把握しておく必要があります。また、実験中も参加者の意思疎通は大切です。

\ 回収や廃棄の方法を考えているか
実験が終了した後には、様々な廃液や薬品の付着物が残ります。これらについて、各大学の廃棄指針に従って処理しなければなりません。学生実験においては、廃棄指針に沿うように指示が出されます。ですので、指示に従わずに勝手にゴミ箱や水道などに捨ててはいけません。実験の目的を達成するだけではなく、環境に負荷をかけない実験を行うことも、大切なことです。