北海道大学大学院理学研究院 化学部門 液体化学研究室 景山義之

化学反応過程と自己組織化 Systems Chemistry

研究紹介

生命の物理的な「仕組み」を化学的に真似ることで、
新たな物質科学の創出・分子技術の発展を狙っています。

キーワードが似た研究をしているグループは数多くありますが、
平衡から大きく離れたところでの自律挙動を達成している点で、
他とは異なるステージでの研究を展開しています。

超分子マクロダイナミクス

私たちの研究の特徴

 私たちの研究目標は、化学反応の非線形性を利用することで、分子集団としての自己制御された継続運動を作り出すところにあります(環境に応じた動きを発現する「メカニカル材料」の研究とは異なる目標を有しています)。
 このうち、定常的なエネルギー供給下で、自律的にフリップ運動を繰り返す研究成果は、世界屈指のものといえます。

分子集合体の自触媒的増殖

 自己複製反応や自触媒反応は、その顕著な非線形性が魅力的な反応系です。これまで分子レベルでの自触媒反応がクローズアップされてきました。一方で、私達のグループでは、分子集団レベルでの自触媒反応に挑戦しました。
 私達は、ベシクルと呼ばれる細胞膜のような中空球状の分子集合体が、界面の性質により化学反応の触媒として機能できることを利用し、ベシクルが自己複製的に増殖していく(継続的に増殖していく)現象を創り出しています。

"Autocatalytic membrane-amplification on a pre-existing vesicular surface"
Hiroshi Takahashi, Yoshiyuki Kageyama, Kensuke Kurihara, Katsuto Takakura, Shigeru Murata, Tadashi Sugawara, Chem. Commun., 46, 8791-8793 (2010).

自律的に大きな動きを繰り返す分子集合体の創出

 定常光を照射している間、分子集合体が、振動運動を繰り返します。
 この研究では、光異性化反応と、結晶相転移という現象を組み合わせることで、平衡から遠く離れた運動を創り出すことに成功しました。光のエネルギーを消費することで、秩序だった動きを維持しています。このような秩序形成挙動を、散逸的自己組織化といいます。

 分子集合体の自律運動は、目で観察される種々の自律機能を生み出します。その事実は、これまで研究例が少なく、多くの化学者には理解されていません。この成果をきっかけに、分子集合体の自律機能について、その本質的魅力を示す研究を開始しています。

T. Ikegami, Y. Kageyama, K. Obara, and S. Takeda, Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55(29) 8239—8243.
Y. Kageyama, T. Ikegami, S. Satonaga, K. Obara, H. Sato and S. Takeda, Chem. Eur. J. 2020, accepted.

分子集合体の自己集積挙動と、それに伴う分子集合体の運動

 分子が集まり、集合体を形成する挙動も、非線形性を有した挙動です。
 左の動画は、少量の両親媒性分子を添加したときの、オレイン酸の集積挙動の動画です。回転しながら伸び続ける挙動が観察されている点は、この研究のユニークなところです。研究では、長い時間、動き続けられる理由を明らかにしています。
 「結晶成長」の研究は長い歴史を有しています。一方で、このような「柔らかい分子集合体の成長」についての科学は、ほとんど進行していません。

Y. Kageyama, T. Ikegami, N. Hiramatsu, S. Takeda, and T. Sugawara, Soft Matter 2015, 11, 3550-3558.

非線形的な運動の追究

 化学反応の非線形性を利用して、継続的な運動を作り出すことを目標に研究を行っている一方、現在の科学は、それを簡単に作り出せるほど発展していません。まずは、顕著な非線形性を作り出すことから、研究は始まります。
 左の動画は、その研究例です。紫外光を照射すると化学反応が起こり、分子集合体が一度不安定になります。その後、分子集合体は安定な状態になろうと、二段階目の化学反応と分子集合体の運動が起こり、秩序だった、しかも大きな運動を実現しています。このような、「何かの反応が起きた後に、何かが起こる」という時間遅れを伴う協同現象は、非線形的挙動の最たる物です。 なお、この変化の後に可視光を照射すると、また分子集合体が不安定になり、その後、安定な状態になろうと分子集合体の運動が再び起こります。

Y. Kageyama, T. Ikegami, Y. Kurokome, and S. Takeda, Chem. Eur. J. 2016, 22, 8669—8675
Y. Kageyama, N. Tanigake, Y. Kurokome, S. Iwaki, S. Takeda, K. Suzuki, and T. Sugawara, Chem. Commun. 2013, 49, 9386-9388.

より基礎的な研究

水分子のダイナミクスが協同する分子の機能の探求

画像は準備中です。

 水は、分子レベルから分子集合体のレベルに至るまで、非線形的な現象を生み出す鍵になっていると、生命現象を考えたときに、私は思えてきます。水分子の特性の理解と制御は、私のライフワークにしていきたいテーマです・・・しかし、まだまだ十分に進展していません。

 水分子は、
  (1)水分子同士で水素結合を形成する 
  (2)プロトン化と脱プロトン化を起こす 

という2つの重要な性質を有する小さな分子です。
 このクセのある性質が、生体内での分子の分散や立体構造の決定、自己集合、自己組織化、分子認識などなど、生命現象に深く関わっている一方、この性質を十分に解明した研究や、機能的に用いた人工分子系の構築に関する研究は、十分に進んでいません。

 その理由はいくつかあります。 例えば、水分子の振るまいまでを踏まえた機能性分子の設計技術が未開拓であることや、水分子のダイナミクスをリアルタイムで追跡する分析方法が十分でないこと、などなどです。

 私は、化学合成のテクニックの他、
  ・pH滴定法
  ・水分子を対象にしたNMR分光法
  ・誘電応答
  ・熱分析
などの計測法を通じて、水分子のダイナミクスと分子(超分子)の機能の相関・協同現象を探っていく研究を展開しています。

 最近では、in-situ型動的核分極NMR装置(14 MHz)を製作し、この装置を用いて、分子集合体を取り囲む水の運動を計測しています。

関連研究発表

国際共同研究

"Intrinsic Surface-Drying Properties of Bio-adhesive Proteins" Yasar Akdogan, Wei Wei, Kuo-Ying Huang, Yoshiyuki Kageyama, Eric W. Danner, Dusty R. Miller, Nadine R. Martinez Rodriguez, J. Herbert Waite, and Songi Han, Angew. Chem. Int. Ed., 2014, 53(42), 11253-11256.

分子集合体の界面の水の性質が関与した研究として

"Autocatalytic membrane-amplification on a pre-existing vesicular surface"
Hiroshi Takahashi, Yoshiyuki Kageyama, Kensuke Kurihara, Katsuto Takakura, Shigeru Murata, Tadashi Sugawara, Chem. Commun., 46, 8791-8793 (2010).
"Mechanism of Macroscopic Motion of Oleate Helical Assemblies: Cooperative Deprotonation of Carboxyl Groups Triggered by Photoisomerization of Azobenzene Derivatives" Y. Kageyama, T. Ikegami, Y. Kurokome, and S. Takeda, Chem. Eur. J. 2016, 22, 8669—8675

トップへ戻る

実験設備・実験装置

合成実験室の概観

広いとは言えませんが、有機合成等を行う実験スペースは確保しています。

分析用HPLC

UV固定波長検出器とELS(蒸発光散乱)検出器のマルチ計測が可能。

質量分析計

小分子の分子量(質量電荷比)を計測する装置。HPLC用検出器としても利用可能。

分取用HPLC(GPC)

有機合成時の分離および生成物解析に利用。

分取用低圧LC

ゲル濾過カラム、イオン交換カラムなどを接続して使用。

粉末X線回折装置

粉末試料からのX線の回折像を撮影します。二次元検出器および温調装置も付属。

紫外可視分光光度計

化合物のスペクトル計測と化学反応の追跡に用いています。

蛍光分光光度計

蛍光スペクトル計測の他、光反応用の光源として用いることもあります。

高速ミニ遠心器

合成試料などの、簡易的な遠心・スピンオフに用います。

倒立型光学顕微鏡 2台

蛍光像・微分干渉像・ホフマンモジュレーションコントラスト像・位相差像を撮影することができます。機能を拡張しています。

200fps高速カメラ

200fpsと称しながら、実は1000fpsまで計測できる高速カメラ。分子集合体の速い動きを計測します。この他、種々の半導体検出カメラを準備しています。

蛍光実体顕微鏡

蛍光顕微鏡と偏光顕微鏡の能力をもつ実体顕微鏡。

全自動pH滴定装置

最少量2μL毎での滴定を再現よく行うことができます。分子構造・超分子構造変化に連動した酸解離挙動の変化を調べるために使用しています。

表面圧計測装置

ウィルヘルミー型の表面圧測定装置です。分子の断面積の変化を計測することができます。

恒温庫

北海道は気温差が大きいので、温度の制御にはいろいろ気を遣います。

磁気共鳴装置(ESR)

通常のESR計測の他、動的核分極NMR計測用のマグネットおよび共振試料室として用いています。

高強度マイクロ波照射ユニット

動的核分極NMR計測時に照射する高強度マイクロ波を発振・増強させています。

磁気共鳴装置(NMR分光計)

固体NMR用のラジオ波出力強度の大きい分光計で、動的核分極NMRの計測を行っています。

Go to PAGE TOP