2020年度第9回雑誌会(2020.08.03)

2020 年度第9回雑誌会
日時:08月03日(月)15:30-17:00
場所:オンライン開催


発表者:成⽥ (B4)
タイトル:Diffuse emission of CO2 and convective heat release at Nisyros caldera (Greece)
著者:Bini, G., G. Chiodini, G. E. Vougioukalakis, O. Bachmann
雑誌:J. Volcano. Geotherm. Res., 376, 44-53, 2019, doi:10.1016/j.jvolgeores.2019.03.017

要旨:

⽕⼭において⼆酸化炭素は、⽕⼭ガスに多く含まれる気体というだけでなく、多くの情報を与える。特に、⽕⼭活動の休⽌期間における⼆酸化炭素の拡散放出は熱⽔系との関連があるため、地表での⼆酸化炭素のフラックスを測定し、その変化を追うことは⽕⼭観測において重要である。

本研究では、エーゲ海の東部に位置するNisyros⽕⼭において、2018年10⽉に⼆酸化炭素の⼟壌拡散フラックスを測定した。これについて、過去に測定されたデータ(1999〜2001年の間に、5回にわたる)との変化を⾒ることと、⼟壌における⼆酸化炭素のフラックスと地熱システムと関連付けて、⽔蒸気の質量・熱エネルギー予算を計算することが⽬的である。

⼆酸化炭素の⼟壌拡散フラックスは、円筒型のチャンバーを地⾯に置き、内部にある⾚外線の分光光度計を通ることで測定される。本研究では、マッピングされたフラックス分布に対して、統計的な⼿法を適⽤することで、1999〜2001年に⾏われた調査データについても、同様に解析を⾏った。また、得られた⼆酸化炭素フラックスのデータから、熱や⼆酸化炭素の対流モデルを考えることで、放出される質量フラックスや、熱エネルギーの量を推定した。

このようにして測定された⼆酸化炭素について、フラックスと炭素同位体の分析によって、⼟壌の⽣物活動によって⽣産される⼆酸化炭素のフラックスを⾒積もり、これを差し引くことで、地熱活動による⼆酸化炭素の放出量を得た。これは以前の研究による⾒積もりよりもわずかに⼤きかった。拡散放出のマッピング結果は、⽕⼭の地熱構造を反映しており、とりわけ、2001〜2002年に開いた⻲裂部分について、異常値が検出された。

本研究の結果から、Nisyros⽕⼭から放出されている⼆酸化炭素の総フラックスは、取り⽴てて⼤きくはないものの、⼆酸化炭素の輸送に関与している深部地熱流体の熱エネルギーの総量は⼤きいものである(134-270MW)ことがわかった。著者らは、将来発⽣する地震によって、深部の地熱貯留層からの熱と流体の輸送がさらに増⼤し、過去にも繰り返しこの地域で発⽣したような熱⽔系爆発(hydrothermal explosion)がトリガーされる可能性があると指摘している。


発表者:岩間 (M1)
タイトル:Mapping Deep Electrical Conductivity Structure in the Mount Isa region, Northern Australia: Implications for Mineral Prospectivity
著者:Jiang, W., R. J. Korsch, M. P. Doublier, J. Duan, R. Costelloe
雑誌名:J. Geophys. Res.: Solid Earth, 124, 11, 2019, doi:10.1029/2019JB017528

要旨:

オーストラリア北部のMount Isa 地⽅は、世界で最も卑⾦属に恵まれた地域の⼀つであり、世界最⼤級のZn-Pb鉱床や銅鉱床、IOCG(酸化鉄型銅⾦)鉱床を保有している。

これまで、オーストラリア⼤陸の⼀次元電気伝導度構造の解明を⽬的とする研究が多くなされてきた。Mount Isa地⽅東端のCarpentariaで⾒られる電気伝導度異常は、オーストラリアの主要な電気伝導度異常の⼀つである。先⾏研究(Chamalaun et al., 1999; Lilley et al., 2003: Wang et al., 2014)から、Carpentaria での電気伝導度異常はCarpentaria 湾から南に向かって1000km 以上も延びる低⽐抵抗帯によるものだと推定された。

Gidyea縫合帯は地震反射法探査(Korsch et al., 2012)からMount Isa地⽅とKowanyama地⽅の境界に位置する地殻境界で、⻄向きの沈み込み帯の痕跡を持つと解釈されており、Ernest HenryIOCG 鉱床を保有することで知られている。また、先⾏研究からGidyea 縫合帯は、Carpentariaでの低⽐抵抗異常域(Lilley et al., 2003)と広域に対応していることが⽰唆された。

本研究では、鉱物資源に富んだMount Isa地⽅の地殻構造を解明し、Carpentariaの低⽐抵抗領域とGidyea縫合帯の詳細な位置関係を明らかにするために、MT法を⽤いて⼆次元と三次元の⽐抵抗構造解析を⾏った。

本研究で推定された⽐抵抗構造モデルから、いくつかの顕著な低⽐抵抗領域が推定された。⽐抵抗構造モデルからCarpentaria での電気伝導度異常は、単⼀の⼤きな低⽐抵抗体によるものではなく、孤⽴または連結した複数の低⽐抵抗体によることが推定された。著者らは、この低⽐抵抗領域は、⿊鉛質または硫化物を含む堆積岩の変性・鉱物化作⽤(Boerner et al., 1996; Lilley et al., 2003)や、Ernest Henry IOCG鉱床の磁鉄鉱に由来すると解釈している。また、Mount Isa地⽅の既知の⾦・銅鉱床の分布は、Gidyea 縫合帯や付近の他の主要な断層と関連しているようであり、Gidyea縫合帯がその周辺の鉱床システムを形成している可能性が本研究から⽰唆された。

本研究では、主要な地殻境界や深い断層を含む導電性の地殻構造が、付近の鉱床システムを形成するというシナリオ(e.g. Begg et al., 2010)を⽀持する結果が得られた。そのため、地球物理学的データを⽤いて主要な地殻構造の位置を把握することは、新たな鉱床システムの発⾒にとって重要である。


発表者:⻄川 (M1)
タイトル:Silicic lava effusion controlled by the transition from viscous magma flow to friction controlled flow
著者:Okumura, S., T. Kozono
雑誌名:Geophys. Res. Lett., 44, 8, 3608-3614, 2017, doi:10.1002/2017GL072875

要旨:

溶岩ドーム噴⽕は⾼粘性な珪⻑質マグマが連続的に⽕⼝から流出する噴⽕様式であり,揮発性成分の離溶やその脱ガス,結晶化によるマグマの粘性変化などの効果を取り⼊れたモデリングが⾏われてきた(e.g. Melnik and Sparks, 1999; Albino et al., 2011; Kozono and Koyaguchi, 2012).しかしマグマは⽕道上昇中に粘性が変化することなどによって延性的性質から脆性を⽰すようになることが⾼温環境下での岩⽯の剪断変形実験などによって明らかになってきた(Condonnier et al., 2012; Pistone et al., 2015).Anderson and Segall(2011)では⽕道浅部に脆性の卓越したマグマが形成する流動しない固体領域(プラグ)を考えることで流れの振る舞いや地盤変動に対する影響を考察した.しかしこのモデルではプラグ⻑は固定された値として設定され,マグマの脆性-延性遷移と流れのダイナミクスの相互作⽤を考慮したものではなかった.

そこで本論⽂ではマグマの脆性-延性遷移の効果を組み込んだ⽕道流モデルを新たに提案した.まず,粘性流領域にKozono and Koyaguchi (2012)を適⽤し,マグマの流動および粘性などのパラメータを計算した.上昇過程のマグマにCondonnier et al. (2012) を適⽤し,マグマの上昇速度と粘性から延性−脆性遷移の有無を判定した.脆性遷移後の領域(つまり,プラグ領域)は,Anderson and Segall (2011)のプラグの静⼒学モデルを適⽤し,プラグ⻑を計算した.数値計算の結果から脆性-延性遷移深度は初期斑晶量が増加すると⼤きくなることが明らかになった.これはマグマ中の斑晶量が増加することでマグマの実効的な粘性が⾼まることにより深部で脆性-延性遷移が発⽣したものと解釈される.⼀⽅で供給率の増加に対しては遷移深度は浅くなる傾向を⽰した.これはマグマが速やかに⽕道を上昇することによって結晶化が遅延したために粘性の増加が抑えられたと考えられた.また剪断応⼒の深さ⽅向の分布としては,遷移⾯において最も⼤きい値を取り,その直上では急激に値が減少する.これは過剰圧を⽣じる主要因がプラグではなくその直下の⾼粘性マグマであることを⽰唆している.