2020年度第4回雑誌会(2020.06.22)

2020 年度第4回雑誌会
日時:06月22日(月)15:00-16:30
場所:オンライン開催


発表者:渋⾕(M1)
タイトル:Inverse modelling of the reversely magnetized, shallow plumbing system hosting oil reservoirs of the Auca Mahuida volcano (Payeina retroarc, Neuquén Basin, Argentina)
著者: John Paine, Riccardo De Ritis, Guido Ventura, Mariana Longo, Dhananjay Ravat, Fabio Speranza and Massimo Chiappini
雑誌名: Geophysical Journal International (2016) 204, 852‒867, doi:10.1093/gji/ggv487

要旨:

アルゼンチンのNeuqué 盆地のアンデス衝上断層帯の東側に位置するAuca⽕⼭は貫⼊岩 体とその下位にあるジュラ紀の堆積物を貯留岩とする,熱起源の⽯油システムを有しており,⾛向NW-SEの断層の影響を受けている.しかし⽯油システムの貫⼊岩体の位置と形状はよくわかっていない. 本論⽂では古地磁気測定および空中磁気測量を⾏い,全磁⼒異常からAuca⽕⼭の浅部構造 を解明する. Auca⽕⼭周辺の全磁⼒異常は,現在の地球と同じ磁場⽅向に磁化を獲得したソースと,逆転している時に磁化を獲得したソースによって作られている全磁⼒異常のため複雑な形にな っている.この複雑さを考慮するために,いくつかのモデリングアプローチを⾏う.

まず伏⾓,偏⾓の影響をなくし双極⼦異常を発⽣源真上の単極⼦による異常に変換する極磁気変換(RTP)を現在の磁場⽅向の磁化,逆転時の磁場⽅向の磁化の2パターンで⾏った. その結果,この地域では逆磁化が⽀配的ではあるものの,⼀部のソースは正しくモデリング されていないことがわかった.

次に全磁⼒データ(TMI)から残留磁化の影響を取り除くVRMI変換を⾏った.このVRMIでは様々な残留磁化をソースにもつ磁気異常データを扱う場合に,TMIやRTPよりも詳細 に解釈ができる.

その結果Auca⽕⼭の地下では海抜400m~海⾯下4kmの範囲で複数のソースが確認された.それによるとAuca頂上⽕⼝の下には環状の貫⼊岩体が予想され,これはボアホールでも 確認されている深度900~1800mの厚さ100m以下の貫⼊体と⼀致する.また,Aucaの中央部,東部にはダイクやラコリスのような物体が予想され,EntreLomas 断層系の⾛向NW-SEの断層に沿う貫⼊と考えられる.また調査領域周縁部の細⻑いソースは孤⽴した浅いマグマ供給システムが固結したものかもしれない.これらのソースはAuca ⽕⼭のマグマ供給系の貫⼊岩体を反映しているらしい.この貫⼊により堆積層が隆起したりその内部に断層を⽣ じることで,炭化⽔素のトラップ構造となったと考えられる.それに加え,⽕⼭活動により, 熱収縮に伴う破砕によって貫⼊岩体そのものの貯留層としての性質が⾼まり,その空隙に⽯油が充填された可能性がある.

本論⽂の磁気データによる構造解析から,⽕成岩体の貫⼊は、それ以前に存在していた断層に沿って発⽣し、ラコリスやシルの形成につながったと考えられる. また,この貫⼊は,⽯油のソースとなった層に熱を与えることで,炭化⽔素の⽣成と成熟に寄与したに違いない. さらには,こうした貫⼊イベントが既存の堆積層の構造を変えることで,貯留層やトラップ 構造の形成を制御していたと考えられる.


発表者:⽯⽥(B4)
タイトル:Configuration and structure of the Philippine Sea Plate off Boso, Japan: constraints on the shallow subduction kinematics, seismicity, and slow slip events
著者:Aki Ito, Takashi Tonegawa, Naoki Uchida, Yojiro Yamamoto, Daisuke Suetsugu, Ryota Hino, Hiroko Sugioka, Kaichiro Obana, Kazuo Nakahigashi, and Masanao Shinohara
雑誌:Earth, Planets and Space, 71(1):111, doi:10.1186/s40623-019-1090-y

要旨:

本研究では、海底地震計と地上局で得られた地震波データにトモグラフィー解析、レシーバー関数解析を⽤いて、房総沖における速度構造とスロースリップイベント(SSEs)との関連性の理解につなげた。 はじめに、地下の速度構造と低⾓逆断層型地震の発⽣域の分布の両⽅から、フィリピン海プレートの上部境界の位置を推定した。推定したフィリピン海プレートの上部境界から、 東経140.5~141.0度の領域で上向きに歪められていることが⽰唆された。また、推定した フィリピン海プレートの上部境界とレシーバー関数解析の結果から、フィリピン海プレートの東端を決定した。この研究で推定された東端には、東経141.6度・北緯34.7度の位置に 変曲点が⾒られ、変曲点より南部では北⻄―南東⽅向、北部では北―南⽅向のトレンドが⾒られた。フィリピン海プレートは、100~300万年前に北⽶プレートへの沈み込み⽅向を変えたことが過去の地質調査から判明しており、このことがフィリピン海プレートの東端 の屈曲を⽣じさせたのではないかと考えられる。 次に、沈み込み帯の地下構造、地震の震源位置、房総のSSEs発⽣域の⽐較を⾏った。この 研究で震源位置が特定された低⾓逆断層型地震のほとんどは、房総沖で周期的に発⽣する SSEsの発⽣域の外部で発⽣していることが判明し、これは沖合においてスロースリップが起こる領域と、標準的な低⾓逆断層型地震の発⽣域が空間的に分離している可能性を⽰唆 している。 加えて、房総沖のスロースリップが発⽣する場所が北⽶プレートの地殻部分と沈み込んで いるフィリピン海プレートの地殻部分との衝突域にのみ限定されることが判明した。房総沖での地殻同⼠の衝突域におけるSSEsの局在性は初めて観測された。


発表者:中垣(D2)
タイトル:Submarine landslide source models consistent with multiple tsunami records of the 2018 Palu tsunami, Sulawesi, Indonesia
著者: Kenji Nakata, Akio Katsumata and Abdul Muhari
雑誌名:Earth, Planets and Space, doi:10.1186/s40623-020-01169-3

要旨:

2018 年に発⽣したSulawesi 地震では現地調査により場所によっては遡上⾼が10m程度あったことがわかっている。これは局所的な波⾼は断層運動による津波の励起のみでは説明することができず、津波駆動源として海底地すべりが発⽣した可能性が⽰唆されている。実際、これまでに先⾏研究によって求められた地震断層モデルを評価したところ、ビデオ波形から推定されたものも含めた湾内全域での津波データを完全に説明できるものはなかった。そのため、本研究では断層運動と海底地すべりの双⽅を励起源とし、湾内全域のデータを再現することのできるモデルの構築をおこなう。 まず、Titan2Dの⼟⽯流計算モデルに対して海⽔から受ける浮⼒による効果を考慮し、海底地すべりのシミュレーションを⾏った。次にこの地すべりによる海底地形の時系列変化を駆動源として、JAGURS を⽤いて球⾯座標における⾮線形⻑波津波の伝播計算を⾏った。 できるだけ少ない津波波源で推定された波源を再現するために海底地すべりの発⽣した位置をいくつかの場所で仮定し必要に応じて発⽣個所を順次追加した結果、湾の南北に1 か所ずつの地すべりを仮定した場合が最もよくビデオから求められた波形や現地調査の結果を再現した。この地すべりは北側のものが0.02㎦、⻑軸が0.8㎞、厚みが40mで最⼤⽔平速度が21m/s、南側のものが2.0km、厚みが15m、最⼤⽔平速度が19m/sで北側の地すべ りを地震の70秒後に滑り始めることで津波到達時間も⼀致した。 この地震によって発⽣した津波は断層運動に伴う地殻変動と海岸の崩落だけでは再現する ことができず、南北2 か所の海底地すべりによる励起を仮定することによってはじめて映像から得られた波形と現地調査によって得られた津波痕跡の両⽅を満たすモデルを得ることができた。